2013年01月01日

目次 ひかげ荘にようこそ(ネギま×オリ主)

プロローグ
第一話 終わった、俺の人生
第二話 うん、イチャイチャしよ先生
第三話 そう、あれがひかげ荘
第四話 L・O・V・E、大好き先生
第五話 まあ、自分で選んだ事だからな
第六話 先生に一杯私を見て欲しい
第七話 絶対キモイって思われた
第八話 もっと甘くて、切なくて綺麗な
第九話 きっと向いてると思う
第十話 リア充って、実は凄くね?

第十一話 生徒が教師に迷惑掛けるなんて当たり前
第十二話 いいよ、先生。一杯泣いて
第十三話 姫って名がつくなら、目指せハッピーエンド
第十四話 全部なくなるまで、私にかけて
第十五話 俺も覚悟決めるから
第十六話 普段は良いけど、今はだめ
第十七話 絶対なんてこの世にはないけど、それでも絶対に
第十八話 世界一可愛いお嫁さんを忘れんな!
第十九話 別に。怖くねーシィ?
第二十話 頭が沸いてるとしか思えませんです!

第二十一話 下ネタとか超越してね?
第二十二話 独り占めしておけばよかった
第二十三話 私から離れて、柿崎を連れて行く
第二十四話 私達が先生を一杯気持ち良くしてあげる
第二十五話 だから、必死に我慢した
第二十六話 今は悪魔が微笑む時代なんだよ
第二十七話 僕はA組の担任の座を狙ってます
第二十八話 俺はもう、駄目かもしれない
第二十九話 セックスフレンド、そういうのもあるんだ
第三十話 セックスフレンドぐらいならいいよ

第三十一話 俺を嫌いなの、好きなのどっち?
第三十二話 のどかの前に出られない格好に!
第三十三話 爺さんの気持ちが今なら良く理解できる
第三十四話 実は先生意外とポイント高いんや
第三十五話 貴方の親友の瀬流彦です
第三十六話 これも一種の未知のファンタジーです
第三十七話 俺と二人きりになったら全力で逃げろ
第三十八話 先生の門戸が広がるのを待ってたネ
第三十九話 初恋は大抵叶わんもんさ
第四十話 まさか平日にチャンスチャンス?

第四十一話 一万やるからジュースとお菓子買ってこい
第四十二話 先生の性奴隷にだってなっちゃう
第四十三話 お前となら、どんな茨の道でも歩んでいける
第四十四話 私も先生の事は結構好きだから
第四十五話 ちょっと摘み食いぐらい
第四十六話 七月三十一日それが決戦の日です
第四十七話 お前の夢に嫉妬しちまった
第四十八話 ベッドの中で貴方と私、しっぽりがお好み?
第四十九話 一緒にアイツを殴りにいこう
第五十話 死んでしまえ、このくそ野郎

第五十一話 俺がどれだけお前を可愛いと思ってるか
第五十二話 まだ、私は処女なのです
第五十三話 俺のアタナシアを下世話な会話で汚すな
第五十四話 お嬢様や刹那のようなピチピチの女の子の方が
第五十五話 俺のアタナシアに触るんじゃねえ!
第五十六話 結婚してくれなきゃ、死ぬ。死んでやる!
第五十七話 間違えて宮崎の胸にパイタッチするかも
第五十八話 絶対に、そばを離れません
第五十九話 あの人、微妙に俺の事を怨んでないか
第六十話 それこそ世界だって親愛的にあげるネ

第六十一話 ただの女の子のお前が、お前が欲しい
第六十二話 お嫁さんになりにきました
第六十三話 言いたい事があるなら言った方が良いぞ?
第六十四話 楽しむ気満々じゃねえか
第六十五話 女の子は受け入れられるようにできてる
第六十六話 それ全然頼りになんない
第六十七話 無力だな、俺って
第六十八話 一晩中、忘れられない夜になるぐらい!
第六十九話 全部、全部いらないネ!
第七十話 私ももう少しだけ可愛がっていただけますか?

第七十一話 なんだかんだで、俺甘いよな
第七十二話 竹林の奥でこそっとしてくるッス
第七十三話 人生最強更新中!
第七十四話 俺の教職としても道はどっちだ
第七十五話 旅の恥は掻き捨て。知ってはりますやろ?
第七十六話 今夜はまだまだ続くぞ。覚悟は良いか?
第七十七話 もう、この関係も終わらせないとな
第七十八話 二人で話せませんか?
第七十九話 この旅で学んだ事を早速忘れんな
第八十話 私の方が先生を愛してる

第八十一話 正直、彼氏といるより楽しかったから
第八十二話 ここか、都会娘のおっぱいは!
第八十三話 ひかげ荘を俺にください
第八十四話 好きなだけ、私を犯せ
第八十五話 だってお前が可愛く笑うから!
第八十六話 あやかの女の子に先生の殿方を
第八十七話 髪留め、似合ってるぞ
第八十八話 先生の太くて硬い。こんなの初めてぇ
第八十九話 腰周りも随分と充実してるだろ?
第九十話 せっちゃんどんどん濡れてくるえ

第九十一話 あっ、流れ星
第九十二話 夜鳴きした体にオナニーはもう飽きちゃった
第九十三話 お前の手の方が気持ち良いよ
第九十四話 俺の物差しは何倍も大きいの
第九十五話 弟とも違うよぉ!
第九十六話 蝶よ花よと愛でられるだけの女性ではありませんわ
第九十七話 逃げられなかったお前の負けだ
第九十八話 やっとこの日が、もうお預けはなしヨ
第九十九話 行け、闇の忍び三人衆
第百話 全員まとめて掛かって来い!

第百一話 改めて、よろしくな!
第百二話 神楽坂がいたじゃん
第百三話 おっしゃあ、殴らず勝ったで千草姉ちゃん!
第百四話 もう一回、最後にもう一回だけ
第百五話 地雷女扱いしてへん?
第百六話 結婚してもこんな感じでゆったり過ごしたいな
第百七話 誰だ、私のむつきをこんなにしたのは!
第百八話 私は先生の血が欲しい
第百九話 ありがてえけど、すまん気持ちが半端ねえ
第百十話 アイツは中学生らしい初恋してるだろ

第百十一話 何時何分何秒!
第百十二話 私も乙姫先生に恋をしたみたいですわ
第百十三話 二番目なのに、好きになっちゃう
第百十四話 女の子にとっては恋愛のバイブルなんです!
第百十五話 本当は、お前にあの尼を犯させるまで待つつもりだったんだ
第百十六話 和美さんの巨乳で癒してあげる
第百十七話 嘘、です
第百十八話 私のプライドが許さない
第百十九話 そんな所の匂いを嗅いで、この変態!
第百二十話 どうやら私たちの負け、ですね

第百二十一話 私に、親愛的の跡継ぎを
第百二十二話 唾つけずに放っておいたらどうなるか
第百二十三話 柔らかい体が欲しいと思いました
第百二十四話 部活がないと時間が余ってしょうがないのよ
第百二十五話 感謝してるけど、殴って良い?
第百二十六話 夫婦喧嘩の後のセックスは燃えるらしいぞ?
第百二十七話 恋愛を楽しむ普通の女の子です
第百二十八話 次に起きたら、俺の秘密の場所だ
第百二十九話 皆の前で抱いてください!
第百三十話 小さいけど、その分弾力は負けてません

第百三十一話 私はなにをどう、変わっていけばいいのかな
第百三十二話 幸せにだけはしてやらないとな
第百三十三話 今日からライバルって事ね
第百三十四話 私もいつか、こんな風に誰かを想ってあたふたしたりするのかなあ?
第百三十五話 今日は帰りたくないんです
第百三十六話 嫌わないで、一人にしないで
第百三十七話 俺のところに来い
第百三十八話 頑張ってこの子を育てます
第百三十九話 悪戯にしちゃあ、人数多いな
第百四十話 だから何時の時代も男は女の子を怒らせるネ

第百四十一話 先生の右手は今夜は大忙しって寸法よ!
第百四十二話 お前、私を虐めるのもいい加減にしろよ!
第百四十三話 なら最後にもう一回、体位を変えろ
タグ:18禁 ネギま

第百四十二話 お前、私を虐めるのもいい加減にしろよ!

 猫も杓子も写真を撮っては超スタにアップロード。
 今はまだ麻帆良学園都市内という、一地方都市のローカルな流行ではある。
 しかしながら超スタは、驚くようなスピードで広まっていた。
 麻帆良学園都市内の各学校、各クラスにあったはずの体育祭に関連した流行が、ほとんど塗りつぶされてしまう程に。
 もちろん、体育祭に関連する写真も多く投稿されてはいた。
 ただ体育祭以外の、学生たちの日常、青春を映した写真が圧倒的多数を占めていたのも事実だ。
 それは元からエロ自撮りが流行していた二−Aも例外ではない。
 単にむつきに送り付けるか、超スタにアップロードするかの違いだけではあったが。
「えーっと……」
 授業が終わり休み時間に入るや否や、皆が自撮りまたはグループで写真を撮る中。
 自分の携帯電話を胸元に抱え、きょろきょろしていたのは佐々木であった。
 普段は亜子やアキラ、明石と写真を撮っているが、毎回同じグループではコメントが付かない。
 特にクラス内ではむつきのコメントが付くことが何よりのステータスである。
 誰と撮ったらとパートナーを求める中で目が惹かれたのは、教室の片隅にいたエヴァであった。
「よくもまあ、飽きもせず……」
 クラスの流行に我関せず、自席で呆れた表情を隠しもせず頬杖をついている。
 休み時間に入って自席におとなしく座っているなど彼女ぐらいのものだ。
「なあ、茶々ま」
「あ、明石さん。よろしければ、私と自撮りを」
「んー、全然オッケーにゃあ。そこ行く、くぎみーも一緒に撮らない?」
「くぎみー言うな。エロなしなら良いよ」
「なぁ?!」
 明石を誘い写真をとる茶々丸へと向けて、裏切ったなとばかりに驚愕の顔を向けていた。
 しかも一人誘うだけならまだしも、明石から釘宮とその輪が広がっていく。
 従者に置いてきぼりにされ、ふんっと鼻を鳴らそうとして佐々木とエヴァの目がばっちりあった。
「ねえねえ、エヴァちゃん。一緒に写真撮らない?」
「ふん、なぜこの私が……と、言いたいところだが。気まぐれに付き合ってやろうではないか」
 お互いの利害が一致した瞬間であった。
 佐々木は超スタに写真がないエヴァのレア度が目当てで、エヴァは写真を撮ることそのものがだ。
 椅子を軽く飛び降りたエヴァが、自撮りに掲げられ携帯電話を佐々木と共に見えあげる。
 カメラのシャッター音を待っていると、視界の端に見えた亜子がこちらを見ていた。
「エヴァちゃん、カメラ目線。先生が笑顔になるぐらい可愛く笑って」
 誰かに見られたら親友かと聞かれるぐらい、ぴったりと体をくっつけた状態である。
「お前、普段交流の全くない私と良くここまで馴れ馴れしくできるな」
「ん? 友達なら普通じゃないの?」
「誰が友達だ」
「エヴァちゃん。撮るよ、そろそろ腕と首痛いから」
 頬までぴったりと引っ付かれ、抗う気力もなくして再び携帯電話のカメラを見上げる。
 視界の隅ぎりぎりにいる亜子が、声を出さずエヴァにだけジェスチャーをしていた。
 自分のスカートを両手でつかみ、扇ぐようにパタパタしている。
(そういうことか)
 頭上の携帯電話を見上げピースサインをする佐々木は、ほかの事が全く目に入っていない。
 こいつは大丈夫なのかと佐々木の将来が心配になりつつも、きちんと彼女のスカートをめくりあげる。
 濃いめのピンクとちょっとだけ背伸びした黒のストライプ。
 ちょっとの背伸びは、少なからずむつきにパンチらを見られたせいもあるだろう。
 自撮りしながらスカートめくりされる佐々木を、亜子が少し離れた場所から撮っていた。
「やった、レアなエヴァちゃんとのツーショット。先生のコメントは二人でわけっこだね」
「むつきなら、まあコメントするだろうな」
「でしょ、でしょ!」
 エヴァの手を取り無邪気にはしゃぐ佐々木に悟られないよう、亜子が小さく手を振っていた。
 どうやら先ほどのちょっと間抜けな自撮り写真の写真は撮れたらしい。
 確かにコメントされる確率は高い、亜子が撮った方の写真でだ。
「あっ、そうだ」
 ちょっと調子に乗った佐々木が、さらにエヴァに提案してきた。
「今日の夜は、ちゃーしゅーの名月なんだって。良くわかんないけど、お月様が綺麗らしいからお月様と一緒に写真撮らない?」
「中秋だ、ばかもの。中秋の名げ……ん?」
 めまいを感じたかのように、エヴァが腰砕けになって膝を曲げた。
 これに驚いたのは佐々木である。
 先日も調子に乗って意図せず、むつきの腹に膝蹴りを打ち込んでしまったのだ。
 また何かやっちゃったかもと慌ててエヴァを支えて、彼女の自席の椅子に座らせた。
「エヴァちゃん、私何か。お茶とかいる? いるなら買って来るけど」
「ああ、大丈夫だ。お前は何もしていない」
「本当、本当に?」
「むつきに今日、姉が来ることを伝え忘れているのを思い出しただけだ。忘れたままなら、姉にどやされるところだった。むしろ、感謝するぞ佐々木まき絵」
 もちろん、姉ことアタナシアからエヴァに連絡など来るはずもない。
 心配する佐々木を安心させるために口を突いて出た言葉だが、ある意味でエヴァの本心でもあった。
 一番ショックだったのは、吸血鬼たる自分が一年で一番満月が輝く中秋の名月を忘れていたことだ。
 以前ならその満月を前に少しだけ開放された魔力で夜空の散歩に出かけたことだろう。
 だが今のエヴァが一番したいことは、中秋の名月をアタナシアとしてむつきと楽しむことだった。
 そしてその後に、気分が盛り上がった男女がすることは一つである。
「四葉五月」
「はい、なんでしょうか?」
 さよと一緒に癒し系コンビで写真を撮っていた五月に声をかける。
「貴様の事だ、月見用の団子を用意しているだろう。少し回してくれ、対価は払う」
「いいえ、対価はいりません。一緒に食べられる先生の感想さえ頂ければ」
 殊勝な物言いだが、頼むのが自分である以上それはエヴァとしても受け入れがたかった。
 中秋の名月を忘れていた現状、これ以上は吸血鬼としての矜持を忘れたくはない。
「いや、払った上でむつきの感想も伝える。それからさよ」
「はい、大丈夫です。恥ずかしながら、最近は体育祭の練習で妻としての夜のお勤めまで体力が持たず……」
「それは良いことを聞いたが、逆に不安にもなるな」
 むしろむつきの滾りを受け止めて欲しいとお願いされるが、一人であれを受け止めきれるものか。
 自分が楽しむのはもとより、むつきがより楽しむ方が大事かと切り替える。
 さよにも何か対価をと考えつつ、両手で一文字ずつ拙い手つきで携帯電話を操作し始めた。
 その様子をエヴァの携帯電話を覗き込みながら、あまりの遅さに佐々木が言った。
「エヴァちゃん、代わりに打ったげよっか?」
「貴様、まだいたのか。写真ならもう撮ったろうが。ほかの奴と撮ってこい」
「まき絵さん、私たちと写真撮りませんか?」
「あっ、撮る撮る。エヴァちゃん、またね。撮りたくなったら、何時でも言ってね」
 見かねたさよが佐々木を誘うと、跳んで跳ねて離れていった。
 無邪気な子犬を離れさせてくれたさよへの対価に色を付けようと決め、携帯電話の操作に戻る。
 ぽちぽちと一文字に数秒かかりながら、休み時間が終わり、授業が始まって十数分後までにメールを送り付けた。









 教材や出欠簿を一纏めにしてトントンと机の上で揃え、鍵付きの引き出しの中にしまい込む。
 その様子を視界の端に捉えた隣の席の二宮が、職員室の壁に掛けられた時計を見上げた。
 時刻はまだ十七時となったところであり、上りにしては結構早い時間であった。
「あら、こんな速い時間にあがりってことは、もしかしてこれからデートですか?」
「あれ、わかっちゃいました?」
 半分冗談の問いかけを肯定され、それは羨ましいこととため息交じりに笑う。
 特に声を潜めていたわけではないので、近くにいた瀬流彦も二人の会話に反応していた。
「そうか、そういえば今日は中秋の名月だっけ。ということはお月見デートかあ、羨ましい」
「羨ましいって。瀬流彦先生、あれから青山さんとは?」
「時々、メールはしてるよ。だけどお互いに物凄く会話がかみ合わなくて。正直、僕の方は気疲れが凄い。途切れそうで途切れないし、僕とメールして何が楽しいんだろう?」
「えっ、なにそれ初耳。瀬流彦先生、ちょうどここに良い相談相手いますよ?」
 面白そうな話だと、二宮先生のターゲットは完全に瀬流彦に向いていた。
 やはり完成されたカップルののろけより、未完成のカップルの話の方が面白いらしい。
 自分から注意もそれたので、むつきはお先にと悩める瀬流彦を置いてあがることにした。
 もちろん、普通の同僚以上の交友はあるため、後日相談にのるぐらいのことはするつもりだ。
 ただ例え親友に近い友人が悩んでいようと、何事にも優先事項というものは存在する。
「それじゃあ、お先に」
 二人とほかの先生からお疲れ様の声を貰い、職員室を後にする。
 既に大半の生徒は下校済みのため、上機嫌に車の鍵を放り投げたりと弄びながら廊下を歩く。
 二−Aの面々も今日はグラウンドが使えない日なので、早めに寮に帰っているはずだ。
 軽く周囲を見渡し誰もいないことを確かめ、携帯電話で超スタのアプリを起動しようとして止める。
 歩きスマホで夕映とぶつかったばかりであるし、職員用玄関を出て車まで十数メートル。
 一分もかからない距離を早歩きで車までたどり着き、運転席について改めて携帯電話を取り出した。
 予想どおり暇と体力を持て余した子たちが、ちょっとエッチな自撮りを上げまくっていた。
 数が数なのでどうしても流し見になってしまうのだが、目についたものは後でコメントするために記憶しておく。
 シャワー後のバスタオル一枚のみの艶姿で、胸元ではなくうなじを強調した和美のポイントは高い。
 ホワイトチョコとのタイトルで、口内で溶かしたそれを口を開けて撮っているのはザジである。
 白く濁った液体の中に舌を躍らせ、口内射精の後にしか見えなかった。
 今年の水着の見納めとばかりにスクール水着を着ているのは美沙だが。
 突き出されたお尻には縦にジッパーの線が続いており、手をお尻に回しそれを開こうとしていた。
 ザジと美沙は完璧アウトなのでお小言様に覚えておく、性的な魅力が過ぎる。
 あと目を引かれたのは、二枚。
 エヴァを引っ張り込んで自撮りする佐々木と、そんな二人を離れた場所から映した一枚だ。
「良くエヴァを引っ張り込めたな、ジト目だけど。それで案の定、これやらせたの亜子か」
 投稿者名に亜子の名前があったが、仮になくてもなんとなく察することができる。
 携帯電話の時間を確認し、コメントをうつ時間ぐらいと指を走らせた時であった。 
「全く、これから美女とデートだというのに何を見ているかと思えば」
 後ろから伸び出来た白い手が、携帯電話を奪っていった。
「うおッ?!」
 自分がどこに座っているかも忘れて驚いたせいで、ハンドルにガツンと膝をぶつけた。
 声の主はすぐさま脳裏に浮かんだが、それどころではない。
 最近、こんなことが多いと涙目で見上げることができたのは、やはりアタナシアであった。
 どうやって車に乗り込んだのか、後ろの席から身を乗り出すようにしてむつきの携帯電話をみている。
「全く、ドジだな。この私がわざわざ出向いてやったのだ。もう少し、喜びようというものがあるだろう? ふむ……」
「全く持ってそのとお……何してんの?」
 ごそごそと助手席に出てきたアタナシアが、再び身を乗り出すように運転席へと体を傾けていた。
 むつきの携帯電話は腕を伸ばした先に置き、自撮りなのだろうとは察することができる。
 ただ腕でも吊ったかのようにアタナシアの指はなかなか携帯電話を操作できないでいた。
 操作以前にそもそもカメラが起動すらしていない。
「ほら、貸して」
「ほ、本当はできるんだぞ。違う機種だから、操作が分からなかっただけで」
「はいはい、そうやってムキになるところ本当にそっくりだわ」
 自分は前かがみに、逆にアタナシアは抱き寄せ、取り上げた携帯電話で斜め上から自撮りする。
 再び携帯電話はアタナシアに奪い取られ、なにかポチポチやっている。
 自分の携帯電話にでも送っているのか。
「アタナシア、そろそろ車出すからシートベルト」
「んー、あと十分」
「長いわ。良いからシートベルトしなさい」
 しぶしぶといった様子でアタナシアがシートベルトをし始める。
 その間もチラチラと携帯電話を見ており、遅々として進まずベルトがセットされない。
 一体さっきの写真をどうするのかと手元を覗き込むと超スタが起動されていた。
 それだけならまだしも、先ほどの写真をアップロードしようとしているではないか。
 よりによって二−Aのグループ内にだ。
「馬鹿、何あげようとしてんだ。しかも俺のIDで。クラスのグループに彼女とのツーショットとか、空気読めてないにもほどがあるだろ!」
「どうせ私と付き合っていることになっているんだ。ちょっと私の男だと自己主張しても良いだろ」
「やめて、凄い面倒なことになるから!」
 そんなことをされれば、今度は自分とのツーショット写真が流行りかねない。
 そんな考えはうぬぼれであって欲しいが、そうならないと言い切れないのが恐ろしい。
「兎に角、携帯をかえしなさい」
「嫌だ、むつきとイチャイチャした写真を見せびらかしたいんだ!」
「欲望全開だな、おい。そうだ、何して欲しい? おとなしく返してくれたら、何でもしちゃうぞ?」
「なんでも?」
「なんでも」
 なんでもは言い過ぎた気はするが、アタナシアの気が引けたので良し。
「キスしろ。凄く甘い奴、ちゃんとする前に好きって耳元で言うんだぞ」
「可愛すぎか」
 携帯電話で顔を隠しながら、最初のキスを命じた言葉以外はか細く消えそうな声だった。
 携帯電話の液晶画面よりも明るいぐらいに赤面している。
 口にした通り、なんでもしてあげたくなってしまうではないか。
 自分とアタナシアを縛るシートベルトを外し、アタナシアを抱き寄せ首元に顔をうずめる。
 正確にはその耳元に唇を寄せ、甘い言葉の一つの囁こうとした時のことであった。
 コンコンっとノックの様な音が二人だけの世界に割り込んできたではないか。
 無粋な音を無視したのだが、即座にしかも今度はタイミングを速めてココンッとノックされた。
「もうなんだよ、誰だよ。空気読……に、新田先生」
 振り向いた先、運転席のドアのすぐ外に眉間にしわを寄せた新田が立っていた。
 完全に忘れていた、ここが麻帆良女子中の教師用の駐車場であることを。
 思いっきりひきつった笑いを浮かべ、むつきは死刑執行を待つ囚人の様な表情で窓を開けた。
「すみま」
「女性を待たすものではない。楽しんできなさい」
 謝罪の言葉は手の平で止められ、苦み走った顔ではあったが意外にも雷は落ちなかった。
 教師用の玄関口では数人の先生方がいたので、あの辺りから新田に話が行ったらしい。
 学校の敷地内で彼女とイチャイチャしていたむつきが一番悪いわけだが。
 彼女がいる目の前で失跡されるところを見せないための配慮なのかもしれない。
 明日になればまたわからないが、今は新田の気づかいに甘えるほかなかった。
「は、はい。アタナシア、シートベルト」
「ふん」
「ヘソ曲げてないで、シートベルトぉ!」
 こちらはこちらでヘソを曲げたらしいアタナシアのシートベルトを大急ぎで締めてやる。
 運転席側の窓を締めながら新田に頭を下げて、そこそこ急いで車を発進させた。









 イチャつき現場を新田に抑えられたり、それでアタナシアがへそを曲げたり紆余曲折あったものの。
 むつきが運転する車は、麻帆良女子中学校から二十分ほど走った場所にある公園についていた。
 山とまでは言えない小高い丘の上にある公園で、周囲は森に覆われ住宅など全くない。
 駐車場には他の車は一台としてなく、アタナシア曰く穴場とのことである。
 中秋の名月のような特別な夜には、自分たちの様なカップルがいてもよさそうなものだが。
 魔力的なもので人払いされているなど、むつきには思いもよらないことだ。
「おお、良いながめじゃん」
 車を降りてすぐ目の前にあった腰ぐらいの木造の柵に手をかけて、軽く身を乗り出して眺めた。
 柵の向こう側はなだらかな坂になっており、一面に夏の名残のをススキの大群が覆っている。
 少し肌寒い夜風に吹かれ、さらさらと穂がすれる音を虫の鳴き声の合間に響かせていた。
 ススキの穂の向こう側には麻帆良の街並みが夜景として広がっていた。
 しかし、普段はその夜景こそが一番の見どころなのだろうが、上には上がいたのだ。
 視線一杯の街並みのさらに上の上、大空では中秋の名月が夜景を薄れさせるほどに輝いている。
「うむ、眩しいぐらいの良い月明かりだ。むつき、そこのベンチに座るとしよう」
「あいよ」
 そう言ってアタナシアが指さしたのは、駐車場脇にある風雨でボロボロになった木製のベンチだ。
 むつきが座るには十分過ぎる代物だが、アタナシアが座るとなっては役者不足が否めない。
 ポケットに手を突っ込みながら、座ろうとしていたアタナシアを少しだけ止める。
「ちょっと待った。はいどうぞ」
 取り出したハンカチをパンっと叩き広げると、彼女が座ろうとしていた場所に敷いてあげた。
「気が利くな。感謝するぞ」
「どういたしまして」
 むつきの安いスーツとは違い、どう見ても値段の張りそうなナイトドレスなのである。
 小さいと言えば小さいがむつきの気づかいに、アタナシアも悪い気はしない様子だ。
 車から持ってきたランチバッグから鼻歌を歌いながらお月見団子の入ったタッパーを取り出した。
 少し深い高さのあるタッパーで、わずかながらにでもピラミッドの様に積まれている。
 お団子のお供は、別途水筒で持ってきた緑茶であった。
 湯気が出るぐらい熱いそれを水筒のカップに注ぎ、アタナシアがそっと息を吹きかける。
 口紅を塗った形の良い唇から吹かれる吐息が、飲むには厳しい熱さのお茶を少しずつ冷ましていく。
「熱いぞ、気をつけろ」
「冷ましてる姿が、ちょっと色っぽい」
「美人は何をしても様になるものさ」
 謙遜一つないその言葉にため息の一つもでなかった。
「普通なら自分で言うかって笑うとこだけど、説得力が凄いわそのセリフ」
 お茶をずずっと口から喉に通すと、いつの間にか夜風に冷え始めていた体が温められていく。
 ほっとしたのもつかの間、くいっと袖を引っ張られ振り向かされる。
 目の前に差し出されたのは今夜のお月様並みに丸くて白いお団子であった。
 爪楊枝にさしたそれを手を添えて差し出された。
「ほら、食え」
「あーん」
 言い方こそぶっきら棒だが、美人の彼女にそうされて嫌がる男がいるはずもない。
 口に放り込まれた団子のほのかに甘い餅を噛みちぎると、塩気を含んだあんこの濃厚な甘さが広がった。
 たまらずもう一度渋いお茶を流し込み、口内に残る甘さに酔いしれる。
 時間が時間だけに空腹という調味料もあったが、あまりの美味さに目じりに涙が浮かびそうだ。
 夜の闇に穴が開いたような丸い月を見上げながら幸せに浸っていると、再び袖を引かれた。
 隣にいたアタナシアが少し不満そうに、爪楊枝の取っ手側を差し出しながら自分の唇に指をあてている。
 何をしてほしいのか、改めて確認するまでもないことだろう。
「ほら、あーん」
「あーん」 
 タッパーから月見団子を一つ爪楊枝で突き、お返しでアタナシアの口に運んであげる。
 むつきと同じように餅とあんこの二重奏、むつきの手の中から奪ったお茶で三重奏。
 最後にすべてを飲み込みほっと夜空を見上げて締めに名月で幸せの四重奏の完成だ。
 いや、欲張りなアタナシアはそれでも足りなかったらしい。
 二人の間にあったタッパー入りの月見団子が邪魔と膝の上へ移動させる。
 タッパー一個分の距離を詰め、隙間の一つもないぐらいぴったりとむつきによりそった。
 むつきもそんなアタナシアの腰を抱き寄せ、空いた左手の爪楊枝で団子をすくい上げる。
「もう一個、食べる?」
「もちろんだとも」
 アタナシアの口に二個目の団子を運び込んだが、その手の中のコップは空に近い。
 コップを拝借したは良いものの、右手はアタナシアの腰に添えたままだ。
 一旦手を放そうとすると途端にアタナシアの眉が吊り上がる。
 どうしろとと思っていると、両手が開いていたアタナシアが水筒のお茶をむつきの持つコップに注ぎこんだ。
「冷ますのはお前の仕事だぞ」
「はいはい」
 言われたとおり、コップの中で湯気を立てるお茶を冷ますために息を吹きかける。
 そんなむつきの様子を見て、アタナシアはしみじみと己の幸せを感じていた。
 今は魔法で人払いしているが、仮に他人が見ればどこにでもいる男女だろう。
 まあ、自分はどこにでも、世界中を探してもいないような美人だが。
(満月のお陰で多少なりとも戒めが緩んでいるのを感じる。人払い程度はこの身でも十分に可能なほどに……)
 ただ今の自分は、そんな貴重な時間をたった一人の男と二人きりになることにだけ使っている。
 もうそろそろ良い具合にお茶が冷めたかと、何度もお茶の表面に息を吹きかける男のために。
 それがどこまでも楽しく、うれしく、背中がこそばゆくなるぐらい恥ずかしい。
「おい、いくらなんでも冷まし過ぎだ。子供じゃないんだぞ」
「じゃあ俺が飲んじゃって、新しく注ぐわ」
「それが良い。よこせ」
 熱い冷たいはさほど問題ではない。
 むつきが自分を思って時間をかけただけ美味くなるのだ。
(たかが携帯電話のパスワードに騒ぎ立てる小娘と変わらんな)
 もう少しだけ近づこうと座りなおしたが、もはや近すぎてお尻の位置は変わらなかった。
 それ以上どうしようもないはずだが、悔しくてほんの少し頬を膨らませる。
「どうかしたか? ボロいベンチだから、お尻痛かった?」
 そんなわけあるかとちょっと張り倒したくなったが、代わりに悪知恵が働いた。
「この私に相応しい椅子とは、到底言い難いからな。ああ、お尻が痛い。誰かさんが優しく撫でてくれると良いんだが。痛い、痛い」
「いやあ、折角のお月見で。ちょっと早いんじゃないかなあ」
 むつきにしな垂れかかり、胸を押し当てながらアタナシアが耳元でささやく。
 お互い最終的にはそのつもりではあった。
 それがひかげ荘かラブホテルでかはさておき。
 アタナシアのフライングともいえる行いに、むつきの声は少々上ずっていた。
 その割に腰にあった手がそのグラマラスなラインに沿って滑り落ちているのだからわかりやすい。
(チョロい)
 そんな風に思われているとも思わず、お月見ですからと空を見上げながらむつきの手は滑り落ちる。
 その手が体を這う感覚にアタナシアが身じろぐと少しだけ止まった。
 しかし首元に感じるアタナシアの吐息を前に、先を急ぐようにまた這い始めた。
「痛いからしょうがない。手当って本当に効果があるらしいぞ、テレビで言ってた」
 尻の丸みを確かめるように撫でながら、誰に対してのか言い訳なのか。
 あの頭上のお月様とどちらが丸いか、比べるように何度も撫でまわす。
 手の平は勿論、指先のさらに爪先に至るまで全神経を集中して、しっかりと確かめる。
「むつき」
 アタナシアの熱を帯びた呼吸が首筋に当たり、より熱っぽい声でささやかれた。
「キス、して」
「うん」
 お月見も月見団子もそこそこにして、お互いに見つめ合う間もなく唇を触れ合わせる。
 小鳥がついばむ様に何度も唇を触れ合わせ、より深くに潜り込む。
 少しの塩味と甘みを味わう様に舌と舌を絡めあったその時であった。
 ザリッと何か抉るような音を二人が同時に聞き、むつきだけが舌の上に走る痛みを感じた。
 すぐさま唇を離し、確かめようと舌を出したむつきだが自分では見ることはかなわなかった。
「いへぇ」
「ぁっ」
 気づいたのは目の前でそれを見せられたアタナシアであった。
 むつきの舌の一部が何かで傷つけられたように血が滲んでいた。
 考えるまでもない、この満月の影響で戒めから解放された魔力と共に現れた牙のせいである。
 普段は八重歯以下の存在感であるが、今は人が指先で触れれば皮膚を破り肉を抉るぐらいたやすい。
 そもそも吸血鬼の牙はそうやって血を吸い上げる目的のために生えているのだから。
「す、すまん。今、その……歯医者で治療中の歯があって」
「へーき、へーき」
 むつきが少々呂律の回らない口で喋っているが、アタナシアとしては内心穏やかでない。
 意図しない形でとはいえ、むつきを物理的に傷つけてしまったのだから。
 半面、牙で引っかけたことにより口の中に広がる微かな血の味、好いた男の血の味に体の奥底から喜びが湧き上がってくる。
 体は紛れもなく喜んでいるが、返ってそれがたまらなく不快で仕方がなかった。
 むつきという人間と、吸血鬼である自分の差をまざまざと見せつけられているようで。
「もう一回」
「え?」
 自分への苛立ちに囚われ、笑いかけてきているむつきがなんと言ったか聞き逃した。
 厳密には理解が遅れただけで、何を考えるよりも前に反射的に拒否してしまった。
「やだ」
「もう一回!」
 伏し目がちに顔を背けるアタナシアを抱きしめる様に引き寄せ、むつきが強引にその唇を奪い取る。
 むつきからすれば、あくまで自分の不注意から発生したアクシデントに他ならない。
 アタナシアが目を伏せる理由など一つもなく、だからもう一度やり直す、それだけのことだ。
 言葉にして見せた通り、アタナシアは唇を堅くとしていたが、長く持つものではなかった。
 入れてと言いたげにむつきの舌がアタナシアの唇の隙間をこじ開けようとうねってきた。
 つい今し方、怪我で血の滲んだその舌でだ。
 愛しい相手の血の香りと匂いの誘惑にいつまでも抗えるものではない。
「んーッ!」
 最後の抵抗とばかりに言葉にならない声を上げたが、逆にそれがきっかけとなってしまった。
 声を上げるために唇がわずかに開き、むつきの舌が再びアタナシアの中へと伸びてくる。
 アタナシアも半分あきらめの気持ちで出迎えようとしたが、いつもとその動きが違う。
 普段なら二匹の子猫がじゃれあう様に絡み合うくせに、別の場所へと向けてうねるではないか。
 ツンツンとむつきの舌先が突いたのは、アタナシアの牙の一本であった。
 つい先ほど先端が刺さったそれを安全を確かめるようにつんつんしている。
(なに、何をしているんだこいつ?!)
 まだ舌が痛むであろうに、それを酷使して一体何をしているのか。
 むつきの意図がよめずされるがままのアタナシアは、次の瞬間に未知なる快楽を知る。
「んぅっ!」
 何度も安全を確かめながら牙に舌先で触れていたむつきが、舌先でその表面を撫でたのだ。
 牙と言えど他の歯と変わらない滑らかな表面を磨くように、舌で愛撫していた。
(い、今変な……なにを、何をされぁっ!)
 大事な家伝のツボでも磨くかのように、丹念に舌先で吸血用の牙が磨かれる。
 表面だけではない、口がひどく疲れるだろうに器用に裏側までも。
「待っれ、変に待ッ!」
 このままじゃダメになるとむつきを引きはがしにかかるが、こんな時ばかり強気になるのだこの男は。
「待たない!」
 肩を後頭部をそれぞれ腕で抱きかかえられ、ガッリチと固定化されてしまう。
 その結果、ベンチの上で押し倒されるような格好で弓なりに背を張った状態で唇を奪われ続ける。
 いや奪われるのは全然構わないのだが、牙を執拗に愛撫されるのだけは我慢ならなかった。
 決して嫌なわけでは絶対にない。
 牙が舌先で愛撫されるたびに、キュッキュという振動が骨身にまで響いてきていた。
 嫌などころか、未知のその感覚が気持ちよすぎる。
(い、いかん……我慢できな)
 今もなお骨身に直接響く愛撫が、女の胎にまで響いて影響を与えてしまっている。
 とろとろと染み出した愛液が下着を濡らし始めてさえいた。
 今日の為に履いてきた取って置きの一枚が、むつきにその姿を見せる前に汚れてしまう。
 膝の上に置いた月見団子を落としかねないと心配する余裕さえなかった。
 その証拠に腰が浮き、覆いかぶさられていない右足がふわふわと浮き上がり始めていた。
(キスだけで、この私が。いや、これはキスなのか?!)
 度重なる牙への愛撫に、もう何も考えられなかった。
 力いっぱいむつきのスーツの背中を書き抱き、愛撫に導かれるまま昂り続ける。
「も、もう無理ぃ!」
 昂り続けた体が破裂するように跳ねた、何度も痙攣するように跳ねた。
 さらに体をのけぞり、右足が中秋の名月を蹴り上げる様に空へと伸ばされている。
 空には満月、地上のベンチの上に綺麗な三日月が生まれていた。
 むつきの強引な支えがなければベンチに頭を打つか、倒れこんでいたことだろう。
「んっ、もういっら。いっらかんぅ!」
 呂律が回らないのはイッたからだけではない、それでもなおむつきの愛撫が続いていたからだ。
 このまま続けさせたら、イキ殺される。
 心臓に杭を打ち込まれ死ぬならまだしも、牙を舌で愛撫され殺されるなど恥以外の何物でもない。
 必死だ、本当に必死になって懇願にも近い声を上げてアタナシアは抵抗した。
「やめれ、わかったから。牙を虐めらいれぇ!」
「八重歯?」
 やっと牙への愛撫を止めてくれたむつきが、口元をぬぐいながらそんなことをつぶやいた。
「あー……そういえば、八重歯萌えは日本人の特有な感覚だっけ。全然、可愛かったよアタナシア。いつでもしてやるからな!」
「ばか」
 のんきなむつきの笑顔に、たった二文字を返すのが精一杯であった。
 ここまで昂った体ではもはやお月見どころではない。
 熱いお茶の様に冷ましてしまうなどもっての外、熱いうちに飲み込まねばおさまらないだろう。
 なんとか膝上でぎりぎり傾いただけで済んでタッパーを退避させ、腕だけでむつきの首に抱き着いた。
「むつきが欲しい。もう我慢できない、入れて」
「いや、流石にここじゃ。せめてホテルにでも」
「そんなに待てるか。お前、私を虐めるのもいい加減にしろよ!」
 常識人の様な顔で正論を述べるむつきだが、イキ殺されそうにアタナシアは怒ってよい。
 あんな仕打ちをしておいて、ホテルまで十数分かそれ以上の距離を我慢しろなど鬼畜の所業だ。
 人払いはしているので、アタナシアとしては出来ることならこのままむつきを性的な意味で襲いたかった。
 吸血鬼の腕力でむつきをベンチに押し付け、またがるままに男根を受け入れ思うがままに腰を振りたい。 
 しかし先ほどのキスで腰砕けになり、足も腰も殆ど力が入る様子はなかった。
 今のアタナシアに出来ることは、我慢できないと媚びるそれだけだ。
「車の中で良いから、はやく入れて。今すぐにでもむつきが欲しいんだ」
「車の……」
 駐車場には相変わらず車は一台のみ、ここは人気のない公園なので覗かれる心配もない。
「わかった」
 そう頷いたむつきは月見団子と水筒を手早くランチバッグに片づけた。
 バッグをアタナシアのお腹に載せて、彼女ごと横抱きに抱え込んだ。
 普段彼女の体温が低めであることを知っているが、かつて感じたことない程に火照っている。
(そんなに八重歯舐め良かったのか? またしてあげるか)
 当人に聞かれれば絶対に止めてと言われることを考えながら、車へと足を向けた。
 今か今かとむつきを受け入れるその時をまつアタナシアを抱きかかえたまま。

第百四十話 だから何時の時代も男は女の子を怒らせるネ

 六限目にグラウンドに現れたむつきは、いつものスーツ姿ではなくジャージ姿であった。
 体育祭も間近となると、各クラスにそう多くはない競技練習の時間が与えられる。
 何故多くはないかというと、練習場所がグラウンドまたは体育館しかないからだ。
 各学年、各クラスに平等に練習の機会を与えると、自然と各々の時間は少なくなる。
 だからこの時期は一限目にグラウンドを利用するクラスが道具を出し、六限目の利用者が片付けるルールとなっていた。
 そして今回は二−Aが六限目、後片付けを含んだ競技練習の時間を割り当てられたのだ。
「先生!」
 幾人かがむつきの存在に気づく中で、声を上げて一際大きく手を振ったのは佐々木であった。
 子供が親に見て見てとせがむ様に、障害物競争用の平均台の近くで跳ねている。
 そしてむつきの視線が自分に向いた事を確認すると、踏み台から腰の高さぐらいある平均台の上に跳び乗った。
 背中に羽でもついていそうな軽やかさで平均台の上を小走りに中腹まで進んでいく。
 さながらその様子は塀の上を優雅に歩く子猫のようだ。
 そして不安定な平均台の上で跳び上がり、前後に両足を広げる開脚を見せて見事に着地。
 即座にハッと軽く息を吹く仕草の後に、後ろへ宙返り、平均台の上に手を着き一回転までした。
 最後に両手を挙げて胸をこれでもかと反り上げ、フィニッシュの恰好である。
 ここまで見事な演技を見せられては、スルーするわけにもいかない。
 同じく観客をしていた亜子や明石がパチパチと手を叩いている場へと歩み寄っていく。
「そういや佐々木は、新体操部だったな。ちょっとしたもんだぞ、凄い凄い」
「えへぇ」
 むつきの素直な賞賛ににへらと笑う。
 色々と注意を受ける事は多いが、褒められる事が少ないのでこちらも純粋に嬉しいのだろう。
「まき絵はこんな感じだから、障害物競争なら一番になれるはずだったんだにゃあ」
「なれるはずだったんやけど」
「てことは、なれなかったのか?」
 明石と亜子の酷く残念そうな物言いに、改めて尋ねるとある方向を指さされる。
 平均台の向こう、いくつかのハードルと跳び箱を超えた先にあるのは地面に張られた網だった。
 最後にあれを潜り抜けて、ラストスパートの後にゴールなのだろうが。
「去年はあの直前まではぶっちぎり一位だったのに、網に絡まって出られないどころか外せなくなっちゃって」
「泣く泣くというか、本当に泣きながら棄権になっちゃったんよ」
「あんなの障害物じゃないよ。網なんだもん!」
 佐々木の意味不明な主張は兎も角、当時の光景がありありと思い浮かぶ。
 本当にお前は残念可愛いなと生暖かい視線を送ると、癪に障ったらしい。
 直前まで褒められていただけに、余計にだろう。
 私凄いもんと唇を尖らせながら、平均台の上で危なげなく片足立ちになって逆の足を大きく上げた。
「ほらほら見て、先生。Y字バランスぅ」
 褒めて褒めてとワンコの様にアピールするのは良いのだが。
 今の佐々木は部活中とは違ってレオタード姿ではなく、体操着である濃紺の短パン姿。
 加えて彼女は腰の高さぐらいある平均台の上で、むつきはかぶりつきとも言えるその下。
 その位置関係で大きく足を広げれば、短パンの隙間から淡いピンクの下着が見えるのも当然。
 むつきと同じ場所にいた亜子も明石もそれには直ぐに気づくことになった。
 これが普通のクラスならむつきに非難が集中しそうなものだが、二−Aはちょっと普通ではない。
 元から普通ではないが今や、ちょっと違う意味で普通ではなくなってきていた。
「今日のまき絵は色々とあざといにゃあ。ピンクのパンツは、先生に見せる為にはいてきた?」
「ゆーなってば、なんで私のパンツの色知ってるの?!」
「お子様パンツやなくて逆によかったんちゃう?」
「え、あっ」
 明石の指摘に素で驚いた佐々木が、遅ればせながら自分の状態に気が付いた。
 咄嗟にY字バランスを止めて内股になった股座を手で隠した所で、むつきと目が合った。
「もう、先生のえっち!」
 正直なところ、平均台の上でのバク転を見せられたことよりも驚いた。
 軽く頬に朱がさし、照れ隠しのようにむつきを責めてきたことがである。
 ワンコ属性の佐々木にも羞恥心がちゃんとあったのかと。
 だが次の瞬間にはもっと驚かされた。
 照れ隠しの延長なのか、佐々木が平均台を蹴ってむつきへと向けて跳んできたのだ。
 避けようにも右手側に明石、左手側には亜子と避けようがない。
 かと言って後ろに下がろうにも、受け止めろとばかりに佐々木が両手を広げていた。
 下手に避けては受け止められることを期待している彼女が怪我をしかねない状況だ。
「おまっ」
 小学生、さらに低学年と心の中で叫びながら迫りくる佐々木の両脇に手を添えた。
 女の子かつ小さい方とはいえ、それでも中学二年生だ。
 グンと腕と腰に伝わる荷重に顔が苦み走りながらも耐え、こらえきったと思ったその時。
 強烈なボディブローならぬ、佐々木の膝がむつきの鳩尾に突き刺さっていた。
 確かに上下の力は地面を利用して受け止めたが、横の移動に対しては無防備だったのだ。
 むつきの手が添えられた脇下を支点に佐々木の胸から下が弧を描いて浮き上がったのである。
 深くめり込んでいた膝が内臓を押し上げ、口から臓物全てが飛び出したかのように錯覚した。
 悲鳴も上げられず、佐々木からそっと離した両手で腹を抱えならが崩れ落ちる。
「ちょっ、先生。まき絵はちょっとこっち」
「え、あれ?」
「先生、喋られるん?」
 何が起きたかいまいち理解していない佐々木を明石が下がらせ、亜子がうずくまったむつきの背をさする。
「ちょっ、マジか。マジで。先生とは別の意味で腹が痛い。誰か今の決定的瞬間撮ってねえか? テレビに送ろうぜ、朝倉!」
「え、何があったの。不覚にも見てすらいなかった。先生どうしたの?」
「長谷川、流石に今のは……あは、駄目よ笑っちゃ。ちょっと待って、お願い。先生が、可哀そう。駄目、やっぱ無理。奇跡、奇跡よ!」
「和泉さん、無理に喋らせてはいけません。先生が落ち着くまで背中をさすってあげてください」
 誰はばかることなく大爆笑している千雨に、普段なら立ち上がってこの野郎と言えたのだが。
 流石に今は無理だった。
 神楽坂でさえ、言葉を詰まらせ笑う中で、刹那のなんと優しい事だろう。
 ここがグラウンドでさえなければ、痛みを耐えるために抱きしめた上での濃厚なキスに溺れたかった。
「先生、無理に喋らんで良いから、ゆっくりな」
「亜子さん、私も……あっ、千鶴さんどうぞ」
「ありがとう、あやか」
 背中をさする手が一つ増えた。
 亜子より少し大きな手、今のあやかとのやり取りから分かる通り千鶴である。
 正直、さする手は二つもいらないが、まだ意見できるほど呼吸が整っていない。
 ただそれでもうずくまる形から顔だけはなんとか上げることができた。
 その顔を見て、指さして笑っていた千雨が咄嗟に視線をそらしてそっぽを向いた。
 少なからず笑いながら集まってきた面々も同じく、逆に純粋に心配していた面々は非難の目を向ける。
「げほっ、はっ……」
 咳込みながら上げられたむつきの瞳には涙がにじみ、今にも流れ落ちそうであった。
 もしかしたら少しばかり鼻水も出ていたかもしれない。
 大の大人の貴重なガチの泣きの顔に、見てしまった者は居た堪れないなんてものではない。
「あー、ちうちゃん。なーかした、なーかした。せーんせーに言ってやろ」
「懐かしいなおい、そのフレーズ。あと泣かしたのは私でもなければ、泣いてんの先生だし!」
「止めなよ、お姉ちゃん。先生、本当につらいんだから」
「ふーちゃん、本当に止めて。流れ弾が四方八方に飛んでるから」
 神楽坂の言う通り、コントの様な奇跡を目の前に笑ったのは一人や二人ではない。
 むつきの泣き顔を前に千雨の様に視線を泳がせたのは、美砂、早乙女、真名、エヴァと他にもいる。
 他にも春日など大爆笑しそうな者もいたが、彼女は幸いにして奇跡を目撃せず笑わずにすんでいた。
 その代わりに流れ弾が飛んだ者たちに向けて、それはないと冷たい視線を向けていた。
「あー、もう。分かったよ、私が悪かったよ」
 その視線に耐えられなかった千雨が、そう叫びながらしゃがみ込んだ。
 亜子と千鶴に左右から背中をさすられ、あやかの高そうなハンカチで涙と鼻を吹かれているむつきの正面にだ。
 足を大胆に開いた状態、ひと昔前のヤンキー座りでしゃがんだ千雨の恰好は、他の子と同じ体操着の短パンである。
 その短パンの股座部分に指を滑り込ませて横に引っ張った。
 当然見えたのはライムグリーンとホワイトのチェック柄のパンツである。
 しかもしゃがんでいるおかげでぴったりと肌に張り付いて、縦筋までしっかり見えていた。
「げほっ、ばか……痛っ、腹痛ぇ!」
 条件反射で顔を背けようと腹をよじろうとして、再びの激痛に言葉が途切れる。
 そんなむつきを前にニヤニヤと、煽っているようにしか見えない千雨が続けた。
「どうよ、先生。元上位ネットアイドルちうたんのはみパンは。特別サービスでサーモンピンク、見せてやろうか?」
 挙句の果てに、下着にも指を食い込ませチラチラと割れ目近くまでまくり上げている。
「これで不幸と幸福が相殺しあって、幸福に傾くってもんだ」
「なるほど一理ある。私も先生を笑った手前、特別サービスしようじゃないか、しかも無料で」
 真名も千雨に倣ってむつきの目の間にしゃがみ込んだ。
 しなくて良いわと叫びたかったがまだ呼吸が不安定なむつきは、止めることができなかった。
「最近、彼氏ができて下着に凝ってるんだ。先生、男目線でこいうのはどうだろうか?」
 短パンの裾を引っ張った先に見えたのは、純白のレース。
 褐色肌と白のレースのコントラスト、しかも真名は短パンだけでなく自分の肌も引っ張っていた。
 肌に張り付いたレースの奥にはピンク色に美味しそうな中身まで見えているではないか。
 どうもこうも、うずくまりながらむつきの腰だけが不自然に浮き上がったのが答えであった。
 腹の鈍痛と息苦しさで生命の危機を感じたせいか、自分で感心するぐらい大きく勃起していた。
 子孫を残さねば血が途絶えてしまうと、当人の意思を無視して精子工場がフル回転を始めている。
 今すぐ二人を体育倉庫に引っ張り込んで種付けしたいが、ここは学校のグラウンドだ。
「ぜぇ、本当待て……くっそ、別の意味で動けねえ」
「先生、ちょっと失礼」
「馬鹿、ポケットにうぐぅ、腹が」
 腹痛と勃起痛で動けない中で、美沙が突然むつきのズボンのポケットに手を突っ込んできた。
 ポケットをまさぐる過程でしっかり勃起状態も握って確認されてしまった。
 それはついでの行為であり、美沙が欲しかったのはむつきの携帯電話である。
 ロックが掛かっていたのでむつきの誕生日を入れてみたが解除に失敗。
 むつきの様子をうかがっていた小鈴に、放り投げて渡してから言った。
「超りん、先生のパス解除しておいて。それから明日菜ちょっとこっち来て」
「え、でも……先生が」
「良いから、良いから。笑っちゃったお詫び、私たちもちゃんとしてあげないとね」
 手を引かれた神楽坂は最初拒否したが、笑ったお詫びと言われては抵抗できない。
 一体どこへと皆が二人を視線で追うと、少し離れた場所の体育倉庫に飛び込んでいった。
 やや距離があるので詳しくはわからないが、やいのやいのと少々揉めている様な雰囲気である。
 だが恐らく神楽坂が観念したのか、静かになってからしばらく経つとむつきの携帯電話が着信音を奏でた。
 その頃には小鈴が難しい顔でロック解除に成功し、着信メールを見て今度はニマニマと笑う。
 気になった木乃香と刹那がそれをのぞき込み、その内容に頬を紅潮させた。
「明日菜、すっかり大胆になって」
「お二人ともとても綺麗です」
「先生、二人からのお詫びのメールネ。恩赦不可避の大胆メールヨ」
 まだひいひい言っているむつきの目の前で見せられたのは、肌色が多い写真であった。
 短パンを腰より下にずり下げた腰パン姿で美砂と神楽坂が、二人並んで跳び箱に浅く腰かけている。
 体操着の上をたくし上げて口で加え込んでいるため、可愛いおへそが丸見えだ。
 また美沙はブラジャーを外しているのか下乳が露わとなり、神楽坂は髪と同じオレンジのブラジャーが見えていた。
 満面の笑みでピースサインの美沙と、気恥ずかしそうに控えめにピースする神楽坂が対象的だ。
 さらに写真上の美沙の胸元に赤丸がひかれ、大きさはこっちが勝ちと書いてあった。
 また神楽坂の方は腰パンの股座に赤丸があり、パイパン勝ちの文字を消そうと指が走らされた跡があった。
「お前、これ前回と同じパターン。ぐあぁッ!」
 せめてこれが教室ならもう少しお詫びを貰っても良いかなという考えが頭を過ったが。
 校舎から丸見えのグラウンドでこれ以上は、前回の二の舞どころではないと無理やり立ち上がる。
 ちゃんとしなければそんな思いから立ち上がったわけだが。
 一点、むつきは忘れていた。
 鳩尾に膝を喰らってうずくまりながらも、自分で既に立ち上がってしまっていたことに。
「きゃあッ!」
 可愛らしい悲鳴と共に顔を両手で覆って背を向けたのは、残念ながら村上一人だけ。
 勃起した一物のそそり立ちに耐えられず、ジャージのズボンの生地がテントどころかチョモランマなみに押し上げられていた。
 狭苦しそうに張り付いているものだから、雌を求める生々しい鼓動が丸わかりであった。
「うわ、別の生き物みたいにびくびくしてる。あんなのがお腹に入るの?」
「お姉ちゃん何言ってるの。入るわけないじゃない、裂けちゃうよ!」
「やばい、スケッチブック。スケッチブック持ってきてない。男の生勃起とか、スケッチするチャンス。先生そのまま、スケッチブック取って来るから、勃起維持しといて!」
「マジっすか、先生JCの誘惑でそんなになっちゃう人っすか。正直ちょっと距離置いてほしいっす」
「馬鹿、これは生理現象だよ。生命の危機的なアレで!」
 言い訳しながら、もう一度しゃがもうとする前に、まだ鈍痛の残る腹に誰かぶつかってきた。
「先生ぇ、ごめんなさーい!」
「痛ぇ、今はまずい抱き着くな佐々木!」
 ずっと謝罪するタイミングを伺っていたのであろう。
 今がチャンスだとばかりに、真正面から抱き着いてきたのだ。
 このワンコは本当に落ち着きのない、腹が痛い相手の腹に頭をぐりぐりな擦り付けてきている。
 頭の一つでも叩いてやりたいが、勃起隠しには丁度良いとも言えた。
 我慢して頭を撫でてやりながら、ちょっとだけ彼女のお腹に勃起を押し付けた。
 一瞬ビクッと佐々木の腰が引けたが、直前の千雨や美沙の行動のせいか逆にお腹を押し返してきた。
「ああ、もうわかった泣くな。けど、頼むからもう少し落ち着き持とうな」
「うん、じゃなくてはい」
「おっ、ちゃんと自分で気づいて直せたな。偉いぞ」
「えへへ」
 泣いたカラスがもう笑い、毒気を抜かれてもう少しだけ頭を撫でてやる。
「なんだか先生、まき絵のお兄さんみたい」
「先生はご実家に私たちと同年代の従妹がいるからでしょうか、手慣れているように見えますね」
「まき絵、本当はお姉さんだから妹属性ないはずなんやけどね」
「なんか酷いこと言われてる気がする。私家だとちゃんとお姉ちゃんしてるもん!」
 アキラや聡美の指摘は兎も角、亜子の言葉には精一杯否定していた。
 確か十歳近く離れているんだったか、流石にそれだけ年齢差があれば姉ぶれるだろう。
「はいはい、ちょっとしたハプニングがあったが。練習時間、だいぶロスしてるぞ。あともういい加減、ちゃんと休ませてくれ。正直、まだ立ってるのがつらい」
「先生、拙者に少し体重を預けてくだされ」
「では反対側は私が」
 良く見ると膝がガクガクしているむつきを、長瀬と茶々丸が両脇から支えてくれた。
 本当に限界なので素直に体重を預け、覚束ない足でグラウンドの隅に行こうとすると美砂と神楽坂が体育倉庫から戻ってきた。
「あれ、折角私たちが文字通り一肌脱いだのに終わっちゃった感じ? また前みたいにちょっとエッチな自撮り大会になると思ったのに」
「馬鹿たれ、体育祭の練習はこれからだ。宮崎と綾瀬は、スケッチブック取りに行った馬鹿を読んで来い。あと神楽坂、まあなんだ。結構なお手前というか、あんまり流されんなよ」
「お、お粗末様でした。それは、先生が痛い思いしてるのに笑っちゃったし、一回しか使っちゃ駄目だからね」
 最近、本当に神楽坂は墓穴を掘るのが大好きときたものだ。
 あんな写真を送られて、使うと来たら彼女が大好きな一人遊び以外の何があると言うのか。
「明日菜ってば、またそうやって直ぐに先生の気を引こうとする。先生、私も後でちょっとエッチな写真あげるね! 私のは何回でも使って良いよ?」
「さ、桜子なに、私別にそういう意味で」
「男にエッチな自撮り写真渡して使うって言ったら、一つしかないでしょ。一枚一回なら、この和美さんが明日菜のエッチな写真、何枚でも撮ってあげようか? それとも先生の写真欲しい?」
「朝倉、私も撮って欲しい。それに先生の写真も一杯欲しいな」
「アキラちゃんまで。写真は撮らない、撮らないけど。写真はちょっとだけ見せて!」
「語るに落ちてますわよ、明日菜さん」
 自ら提供したネタを前に赤面中の神楽坂が、皆の玩具にされないはずがない。
 むつきがグラウンドの隅に連れられて行った後も、神楽坂を囲んでワイワイはしゃいでいる。
 そして願ってやまないラブ臭を嗅ぎ損ねた早乙女は、後で激しく後悔することになる。









 ギアの切り替えがまだまだ甘いが、二−Aのクラスメイトはやる時はやる子たちである。
 それはこれまでの中間、期末テスト等の結果からもわかっていたことであった。
 今回も真面目になるまでに一波乱あったものの、練習が始まってしまえばそれに集中できていた。
 二人三脚で五十メートルを走るのは、鳴滝姉妹ペアと木乃香と刹那ペア、村上とさよのペアだ。
 この中で一番息があっているのは、双子というどうしようもないアドバンテージを持つ鳴滝姉妹。
 安定性抜群だが二人とも体の成長具合が遅く身体能力を加味すると、ややプラスというところか。
「お二人さん、おっさきー」
「ばいばーい」
「あーん、また置いてかれてまう。せっちゃん、おいっちに、おいっちに」
「このちゃん、急にペース変えたら。あっ」
 鳴滝姉妹に抜かれたことに木乃香が焦ったことで、ペアの刹那と足が絡まりあう。
 口にした通り、あっという間にすっころんでいた。
 仲の良さで言えば鳴滝姉妹に引けはとらないが、二人の運動神経が違い過ぎる。
 図書館探検部に所属している木乃香の運動神経は、決して悪くはない。
 だが剣道部でばりばり運動しているボディーガードの刹那とは、根本が違うのでお互い気遣い過ぎて苦労していた。
 そんな二人の横をゆっくりとだが着実に歩むのは、村上とさよのペアだった。
「みーぎ、ひだーり」
「ひだーり、みーぎ」
 可もなく不可もない運動神経、やや悪い寄りだとお互いが自覚しているからだろう。
 確実性重視の性格もあって、それなりのペースで進むことができていた。
 村上とさよのペアが通り過ぎたのを確認して、むつきは倒れこんだ二人に駆け寄った。
「二人とも怪我ないか?」
「大丈夫、せっちゃんが受け止めてくれたから。あれ、足紐のハチマキが切れとる」
「ふ、古くなっていたからでしょう。いや、これもこのちゃんの日頃の行いが良いから。足を挫く前に切れてくれたんでしょう。そうです、違いありません!」
 切れたハチマキを前に木乃香が不思議がっていると、妙に気持ちを込めて刹那が熱弁していた。
 二人はグラウンドの土の上で、刹那が下となり木乃香を受け止めている形である。
 たしかに、足紐がつながったままではどうなっていたことか。
 妙に綺麗な切れ方をしている足紐のハチマキを預かり、代わりのを手渡して一言断りをいれる。
 怪我の有無を確かめるために、後ろ手に地面に座りなおした木乃香の足に触れた。
「先生」
「ん、どうした。どこか痛いところでも」
「明日菜の体、綺麗やった?」
「このちゃん?!」
 唐突な木乃香の問いかけに思わず噴き出した。
 思わず周囲を見渡したが、鳴滝姉妹ペアと村上とさよペアはゴール手前で離れている。
 他の子たちもそれぞれの競技練習中なので聞こえやしないだろう。
「凄く綺麗だった。どうした急に」
「せっちゃんと先生お互いに好き好きやのに、うちの我儘でお預けされとるやろ? その間にのどかや那波さん、皆次々先生と結ばれて。ちょっと焦っとる」
「ええんよ、このちゃん。うちは全然待てるから。それに二人一緒はうちの願いでもあるんやから」
「でもな、うち既に先生のこと好きなんよ。イチャイチャするのドキドキして楽しいし、エチエチするもの恥ずかしいけど」
 最後は少し濁していたが、風に流され消えそうな小さな声で好きとつぶやいていた。
 本番こそまだだが、二人ともに本番一歩手前までの行為は経験済みである。
 それこそ木乃香と刹那がそれぞれ何処に性感を持ち、どういう触れられ方が好きか把握する程には。
「先生、よう皆の事みとるし、困っとったら真っ先に駆けつけてくれる。さっきも普通の男の人なら、まきちゃんのこと怒鳴りつけとってもおかしないのに、笑って許してくれて」
「流石にきつかったが…お転婆な従妹がいると、あれぐらいは何度か経験あるんだよ」
「ええ人やなって、明日菜もいっそ高畑先生より、乙姫先生選んだらって思うぐらいに。うちに何が足らへんのやろか。先生にやない、足らんのはうちなんや」
 最後の呟きは、むつきや刹那へではなく、自分自身への問いかけだった。
 こういう場合、答えの一つは千鶴の時と同じく、俺のところに来いと強引に抱きしめることだ。
 だが木乃香に対しては、適切な対応とはいいがたい。
 木乃香の気持ちの出発点が、刹那と一緒にいたいというものなのだ。
 好意の根幹にむつきに向けた好意がないとは言わないが、ほかの子に比べると薄い。
 明日菜についても、むつきなら親友を任せられると男性として認めているだけに過ぎない。
「俺からもあまり多くは言えないが、焦って答えを出そうとするな。刹那も全然待てるって言ってくれてるし、イチャイチャでもエチエチでも好きなだけ付き合うから」
「正直に言えば心だけでなく、体も結ばれたいです。でも心がつながってますし、直接体でつながれない分、色々とご奉仕とか。だから、ね。大丈夫です」
「うん、ちょっとすっきりした。最近、ちょくちょく悩んどったから」
 立ち上がって膝の土を少し払うと、木乃香は洗ってくると刹那の手を引いて走り出した。
 その背に向けてまた転ぶなよと声をかけて見送った。
 次の休みには思う存分、付き合ってやるかと思いながら。
「さて他にはっと」
 軽く周囲を見渡して次に目についたのは、クラスどんくさいランキング上位の聡美だ。
 特別頭が良い分、運動パラメータが凹んでしまっている。
 五月とペアで玉転がしの練習をしていたようだが、何故か聡美が止まった大玉の上に腹ばいで乗っていた。
 おそらく大玉の転がる勢いに飲まれて巻き込まれたのだろう。
 降りようとジタバタと足を動かし、下手に大玉を動かすと危ないので五月も手をこまねいていた。
「大丈夫です、私の計算は完璧ですから!」
 助けようかと一歩踏み出したところで、恥ずかしかったのか向こうから来ないでと手を振って止められてしまう。
 計算は完璧でも、体がそれを実現できなければ何の意味もないのだが。
 結局、近くでエヴァと玉転がしの練習をしていた絡繰がゆっくり大玉を逆回転させて救出されたようだ。
 ふんぞり返ったエヴァが聡美に何か言っているが、そんな彼女の体操服や髪が少し土埃で汚れている。
 見てはいなかったが、きっと自分も何度か大玉に巻き込まれたに違いない。
「このクラス、めちゃくちゃ運動できるか運動音痴の二極化酷くね?」
 もう他に運動音痴はいなかったかと探そうとしたところで、ズボンのポケットの中の携帯電話が震えた。
 差出人は木乃香であり、週末はエチエチで可愛がってとのおねだりであった。
 その先払いという意味なのか写真が添付されていた。
 場所はやっぱり体育倉庫。
 刹那と向かい合わせで跳び箱にまたがった状態での、舌を見せつける様なベロチューである。
 まるで二人の舌の間には、むつきの竿があるかのような光景だった。
「最近あいつら、普通にエロ自撮り送って来るよな」
 送ってこないのは、村上か春日、あとは長瀬ぐらいのものだ。
 釘宮はそのつもりはなくても、美砂と桜子の巻き添えで時々送られて来ていた。
 後で消しなさいと詰め寄られるため、目の前で消した後にまたバックアップから復元している。
 鳴滝姉妹の特に風香が自分ではなく、史伽の写真を送ってくることもある。
 自室のトイレのドアを開けられた様な写真は本当にかわいそうなのでちゃんと消した。
 かなりまずいのではと、一番心配になるのは誤送信であった。
「えーっと、おーおぉ……」
 目的の人物を見つけようと周囲を見渡し、その人物と光景に軽く言葉を失った。
 見つけたかったのは小鈴だが、一緒にいた古とザジがいた。
 古が弾入れ用の籠を背負い、ザジが腕に何個も抱えた球を四方八方から投げつける。
 小鈴が弾の射線上に割り込んで叩き落とし、間に合わないものは古がかわしてはじく。
 やっていることは分かるのだが、アレを玉入れと呼んでいいものだろうか。
「おーい、真面目に練習中悪いが超、頼みがあるんだが」
 本当に邪魔して悪いが、急いだほうが良い要件なので割って入る様に声をかけた。
 そこへ玉を両手いっぱいに抱えたザジが割り込んできた。
「先生、私どうにも玉入れのコツがわかりませんの。どうか実践にてご教授願えませんか?」
「いや、後でな。今は超に」
 まずはと一旦は断ろうとしたむつきに、ザジは白い玉を選んでむつきに握らせてきた。
 そのままその手を玉越しに恥丘にそえるように押し当てる。
「体育倉庫のマットの上で、先生の玉を私の籠から溢れるぐらい、存分に」
「下ネタじゃねえか!」
「仕方がないないネ、親愛的は。男と女の棒倒しがしたいと誘われれば、雌奴隷としては断れないヨ」
「いや、正直むらむらしてるから棒が倒れるまでしたいけどさ」
「チ、親愛的の跡継ぎ産みたいアル」
「ただの願望じゃねえか、あと高校卒業してからね!」
 ザジから下ネタが始まり、同じく下ネタの小鈴、ラストに下ネタですらない古である。
 本当に後で誰かに体育倉庫で体操着プレイを頼んでしまおうか。
 先ほどからずっとむらむらしているのは本当で、勃起が完全に収まったわけでもなかった。
「ブルマーなら直ぐに用意できるネ」
 ニンマリと赤丸ほっぺで微笑まれ、大いに心がぐらついた。
「いや、あの……よろしくお願いします。あずき色より濃紺の方が好きです」
「毎度ありネ。親愛的の為ならなんでもするヨ」
「ついでというか、こっちが本命なんだが」
 むらむらが収まらない胸の内を押さえつけながら、絞り出すように本題を口にした。
「ひかげ荘知らない子にも、小鈴の超包子製の携帯電話配ってやれないか?」
「全然、問題ないヨ。むしろ持ってない方が少数派。手間的にも大したことないネ」
「おっと」
 自分の携帯電話を見せながら喋っていると、見計らった様にブルブルと震えた。
 今度は誰の自撮りだとある程度は覚悟してメールを開いたわけだが。
 想像をより超えた写真が送られてきていた。
 場所はやっぱり体育倉庫、一回り小さい体操着を着ることでより胸が強調された千鶴だった。
 ノーブラらしく丸い二つのお山には一つずつぽっちが浮かび上がっている。
 上着の丈も足りずにへそチラしているのが、なんとも悩ましい。
 また即座に一通追加で送られてきたので、流れで見て見るとあやかからであった。
 自撮りではなく千鶴にでも取って貰ったのか。
 濃紺のブルマ姿でお尻の食い込みを直そうとお尻とブルマーの隙間に指を挟んでいる恰好だった。
 エロい、肌色率は低いのになんともエロ優等生のあやかであった。
「言ったネ、直ぐにでもと」
 そう小鈴が笑うと、次から次へとメールが届けられる。
 体操座りで小首をかしげブルマーの裾からパンチラするのどか、物を拾う恰好で小さく丸いお尻を突き出す夕映。
 お尻を向けてしゃがむことで、ブルマーに下着のラインを浮かべるアキラ。
 何故か、皆が皆、濃紺のブルマー姿でのエロ画像を送って来るではないか。
 嬉しいことは嬉しいが、何か違和感というか、不自然さを感じる。
 今も着信が止まらない携帯電話から小鈴へ視線を向けると、にっこり笑っている。
 笑いながら何か怒っているように見えた。
「小鈴さん、私が何かいたしましたでしょうか?」
 笑顔って怖いものなんだなと思いながら、恐る恐る尋ねてみる。
「先生、携帯電話のパスワード。美砂サンの誕生日だったヨ」
「いや、まあ最初に付き合ってそのま、ま……」
「ちょっとカチンと来たから、ひかげ荘のメンバー全員に送ったヨ。先生の携帯電話のパスワードが、美砂サンの誕生日だったって」
「おおう、もう。マジかぁ……」
 むつきに特別扱いしたつもりはない。
 先ほども口にした通り、付き合った当初に設定して変える理由もなくそのままだったのだ。
 本当にただそれだけで、内心美砂が一番だとか、依怙贔屓しているつもりもなかった。
 確か以前にもこんなことがあった気がする。
 小鈴を皆の前で小鈴と呼んだ時、一人だけあだ名で呼ばれてずるいと。
「乙女の沸点って何処にあるのかわかんねえよ」
「だから何時の時代も男は女の子を怒らせるネ。怒らせるネ」
 確認してみれば、古とザジの姿もまたこの場から消えていた。
 さっと体育倉庫に視線を向けてみれば、いそいそと駆け込む二人の姿があった。
 まだしばらくは、私だって可愛いアピールのメールが途切れる事はなさそうだった。

第百三十八話 頑張ってこの子を育てます

「ごめん、ちづ姉……電話が遠くて良く聞こえなかったみたい。なんだって?」
 聞こえていて、あえて効き直してきている。
 携帯電話の向こう側から帰って来た村上の声色に、千鶴は背中に嫌な汗が噴き出るのを感じた。
 院長先生の前でむつきとイチャイチャし、孤児院を辞したのは既に三十分以上前のことだ。
 今、千鶴はとある場所から、心配かけた妹分へと電話を掛けている。
 無事を伝え一時は安堵した妹分の声が、話を続けるうちに次第に低く固いものになっていったのであった。
「だからね。今、乙姫先生の家にいるの」
「うん、ひかげ荘ってところだね。それで」
「夏美ちゃん、声が怖いわよ」
「それで?」
 下手に和ませようと甘えた声を出してみたが、見事に逆効果であった。
「えっと、帰るのが少し遅くなります。お夕飯前には帰るつもりだけれど」
「ちづ姉、私そろそろ怒って良い? 心配し過ぎてパニック起こした私に言う台詞がそれ?」
「心配かけたのは謝るわ。ごめんなさい、夏美ちゃん。でもやっと想いを遂げられて、このまま先生とお別れしたくないの。少しだけ、ほんの少しだけだから」
「昨日のピクニックから帰る途中なら、素直に応援したけど……ちづ姉、先生に変って。文句はそっちに言うから」
「せ、先生は今、別の電話中で出られないわ」
 言い訳がましく聞こえたのか、村上から沈黙が返りお願い信じてと千鶴は訴えた。
 本当にむつきは別の電話の対応中なのである。
 このままでは妹分からの信頼がガラガラと崩れてしまう。
 千鶴は祈る様な面持ちで携帯電話をむつきの方へと向けた。
「ええ、無事に保護しました。色々と実家と進路の兼ね合いで悩んでいたみたいで」
「那波君の実家……ああ、そうか。その様な素振りも見せず、ため込んでしまったのか」
「表面上は少し落ち着きましたが、もう少し僕の方でも話を聞いてみます」
「そうだな、こちらの事は任せておきたまえ。君はしっかりと那波君の話を聞いてあげなさい」
「はい、ありがとうございます。那波を寮に送り届けたら、また連絡します」
 上司とも言える新田にそう報告し、むつきは携帯電話を切った。
 今回の千鶴の失踪に当たり、むつきから報告を上げた相手が新田だったのである。
 無闇に情報を拡散して混乱を引き起こすわけにもいかず、かと言って全く報告しないわけにもいかない。
 新田から何処まで情報が上がったかはむつきは知らない。
 ただ孤児院にて千鶴が見つからなかったら、手すきの教師を全員かき集める予定ではあった。
 携帯電話を切ってから、むつきは学校の方角へと向いてぺこりと頭を下げた。
「あの先生、夏美ちゃんが」
「説得失敗か。貸してみろ。おーい、村上」
「聞こえてた。嘘つき……はあ、微妙な間で毒気もぬけちゃった」
 聞こえていたとは、むつきと新田とのやり取りの事であろう。
 色々と気が抜けたような疲れたような声が携帯電話の向こうから届いて来ていた。
「ちづ姉を見つけてくれたのは先生だし、私が慌てて孤児院の事を思い出せなかったし。ここは私が折れとくね。ちづ姉には学食で特製のパフェ奢ってくれることで手を打つって伝えておいて」
「お前、なんかこの数日でちょっと大人になったな」
「とってつけた様に、誰のせいだと思ってるの」
 盛大なため息の後にごゆっくりと呟いた村上が向こうから携帯電話を切った。
 ブチリとやや乱暴気味に切られたが、その気持ちは分からなくもない。
 寮の部屋にいるはずの那波が、帰ってみればもぬけの殻。
 半泣きでむつきに連絡を取り、無事見つかったのは良いがその千鶴は男の部屋になだれ込んでいた。
 しかも流れ的に二人が何の目的でかは、まだまだ乙女を失う予定のない村上にだってわかる。
 妙な事を考えていなければと思った相手が、全然別の意味で妙な事を考えていたともなれば怒りたくもなるだろう。
「千鶴、村上が学食のパフェで手を打つってさ」
「ああ、私の可愛い夏美ちゃんが汚れてしまったわ」
「まあ、汚したのは俺とお前だけどな」
「ですね」
 二人がいるのはひかげ荘の管理人室であった。
 ちゃぶ台の前でむつきが胡坐をかき、その斜め後ろで千鶴が女の子座りをしている。
 電話を終えた後の微妙な間の後で、さてと呟いたむつきがおもむろに両手を叩く。
 その音にビクリと千鶴が肩を震わせた。
「ん、悪い驚かせたか?」
 むつきの言葉に無言のまま首を激しく横に振ったのには理由がる。
 千鶴は視界の片隅に見えるとあるモノを意識してチラチラ見ていたからだ。
 それは管理人室の片隅にて畳み込まれていたお布団であった。
 三つに折り曲げられたその裾からは、皺になっているシーツがはみ出している。
 普段なら一晩で汚れるので取り換えるが、昨晩は夫婦の営みがなかったのでそのままなのだろう。
 頬を染め視線を彷徨わせる千鶴だが、隠したつもりの事実はあっさりとバレていた。
「慌てんなって。時間はまだたっぷりあるんだから」
「だから何も見てません。見てないんです」
 あまりにも千鶴が必死に否定するので、悪戯心がむくむくと大きくなった。
 視線を逸らしている千鶴を半眼で見つめながら、おもむろにむつきは呟いた。
「セッ」
「ンッ?!」
「なかが痒いな」
 むつきへと振り向き直した千鶴が、ぽりぽりと背中を掻く様を見て明らかにホッとした様子だった。
「あー、セック」
「ヒャゥッ」
「なワインが飲んでみたいな」
 とりあえず、セッから始まる単語を呟き、継続してみる。
 以前アタナシアがワインの口当たりについてうん蓄垂れていた時に、聞いた言葉だが意味は忘れた。
 今はただただ千鶴がセックスを意識して戸惑う可愛らしい姿が堪能できれば良いのだ。
 しかし流石に二回目ともなれば、からかっていたことがバレてしまった様だ。
 あたふたしていた千鶴がからかわれていた事に気づき、ニッコリと危険色の様な影を顔に浮かべた。
「先生、乙女の純情を弄んで楽しいですか?」
「正直に言って楽しい。男の子って歳でもないが、どういう生き物か良く知ってるだろ?」
「それは……その、はい。そんなに楽しいのなら。もう少し、もう少しだけなら、どうぞ」
「どうぞってお前、可愛い!」
 怒っている振りをしてそっぽを向きながらの一言に、むつきは我慢できなかった。
 畳の上で尻を回転させて千鶴の方へと向き直り、飛びつく様に抱きしめた。
 本当にこの子は外見に内面が追いついていない、可愛い女の子なのだと。
「きゃっ」
 突然むつきが振り向いた事に驚いた事と、その勢いに気圧されて千鶴が後ろに倒れ込んだ。
 もちろん、抱きしめたむつきの腕にガードされていて頭を打ったりすることもなかった。
 最後にそっと畳の上に寝かせられ、壁どんならぬ床どんの形でむつきに見おろされる。
「千鶴、からかうだけじゃ足りない。俺のモノにしたい」
「は、はひ」
 またしても大事なところで千鶴が噛んだが、むつきの方が勢いでそれを無視した。
「一杯エッチなことするぞ。これよりもっと恥ずかしいことをだ」
 こういうことだぞと言い聞かせるように、むつきは人差し指で千鶴の胸を突いた。
 秋も深まり制服のシャツの上からベストを着ても、着痩せのきの字もない胸をだ。
 今にもボタンがはち切れそうなのにむつきの指で調和を乱され、シャツの生地が悲鳴を上げる。
 ただ小さくも声をあげたのは生地のみではなかった。
「んぅ」
 真っ直ぐに見下ろしてくるむつきの視線から逃れる様に、少し視線を逸らした千鶴である。
 自身の艶っぽい声に自分で驚いたのか、唇を噛み締めるようにしていた。
 その目が少し動いてチラリとむつきを見て、再びサッとそらされる。
 むつきの熱い視線に熱せられたかの様に、千鶴の顔が少しずつ赤くなっていく。
 数十秒か、数分か。
 根気良く待つむつきの前で、何か言おうと開いた口はそのまま閉じられ一度だけ千鶴が頷いた。
「千鶴、キスするぞ」
 もはや声を発する余裕すらないらしく、千鶴は小さく頷くにとどめていた。
 緊張から体が強張ったのか、あるいは手を握りしめようとでもしたのか。
 千鶴がガリガリと畳の上に爪を立てる音が聞こえてきたが、むつきはその程度では止めるつもりもない。
「千鶴」
 その名を呼び、火照り薄ら汗さえ浮かべる千鶴の頬に手を触れ、退路を断つように唇を塞いだ。
 キスをしながら強く瞳を閉じている千鶴を見つめたむつきは、そのままそっと小さく距離を開けた。
(何時もなら、そのままディープにするんだけど……)
 今の千鶴にそこまですると、窒息するまで息を止めかねない。
 終わったとでも聞きたそうにチラリと片目を開けた千鶴に微笑みかけ、チュッと頬にキスをする。
 ファーストキスの後に、お休みのキスの様なものをされキョトンとしていた。
 もっと過激なキスになるとでも想像していたのか、肩の力が少し抜けたのをむつきは見逃さなかった。
「こっちのほっぺも、おでこも」
 頬から頬へ、前髪をあげさせおでこにも。
 耳たぶやうなじにまで、慣れさせるように優しいが微エロなキスを繰り返す。
「先生、待っ……きゃぅ、耳に音の残響が。顔中に先生の感触が」
「一杯エッチなことするって言ったろ。はい、駄目。捕まえた」
「んぅー」
 キスの嵐に耐え切れず千鶴が意味不明な訴えを起こしたが、もちろん聞く耳を持たない。
 先んじて暴れ出しそうだった両手を恋人繋ぎで封じ、万歳をさせるように畳の上に押さえつける。
 それから安心して、今一度千鶴の唇を奪い直し、キスを降らし始めた。
 頬やおでこはもちろん、首筋や耳元ですら序の口。
 まぶたの上や喉の上など、普段なかなかキスしない場所にさえ率先してキスを施していった。
 最初は抵抗するように暴れた千鶴であったがキスが十回を超えた辺りから大人しくなっていた。
「天井、染み数え」
「それも駄目」
「先生どいてください。天井が、見えひゃ」
「天井なんかより、俺を見てろ」
 誰が吹き込んだのか古臭い台詞を呟き天井を見上げた千鶴の視線を遮った。
 ついに本当に抵抗を諦めた様に力が抜けた千鶴の唇を何度目だろうか、塞いだ。
「ん、先生……ッ?!」
 改めて千鶴の唇を割って舌を彼女の中へと侵入させる。
 一瞬体が強張り直そうとしたが、散々抵抗の無意味さを教えたおかげか以外に大人しかった。
(しかし、なんだろ)
 千鶴の熟れた唇や、艶めかしい舌や唾液を味わいながらむつきは思った。
 お互いに納得済みでこうしているはずなのに、妙に無理やり手籠めにしている感じがある。
 行為の最中に上の空なのは失礼な話だが、奥に引っ込んだ千鶴の舌をからめとりながら気づいた。
 こうして押さえつける形でしている事よりも、千鶴が制服姿なせいだろう。
 むつきはあれだけ生徒を手籠めにしながら、意外と制服でプレイすることが少なかった。
 基本的には土日が多く、平日に学校でセックスに至る事は本当に稀なのだ。
(俺も変な所で慣れてたのか。千鶴と、生徒としてるって実感が凄いあるのかも)
 疑問が氷解したのでこれで思い残すことなく千鶴を味わえる。
 その唇を、口内、歯を舌や唾液と隅々にまでだ。
 むつきが満足して唇を話した時には、千鶴は脱力してくてりと横たわっている。
 そんな千鶴を改めてむつきは見下ろした。
「せ、先生……」
 千鶴は心が体の成長に追いつこうとしているように、男に媚びた声と瞳を向けて来ていた。
 静かにあれる呼吸はその大きな胸を重そうに上下させている。
 暴れた時についにボタンが耐え切れなかったのか一つ千切れ飛んで無くなっていた。
 その隙間から薄紅色に黒のレースがついたブラジャーが垣間見えている。
 またシャツの裾が一部飛び出しているスカートはめくれ、太ももがぎりぎりの部分まで露出していた。
(あかん、凄くエロい。明日、学校で会ったら思い出す。廊下ですれ違っただけでも、授業中でさえ)
 ここ最近、千鶴が年相応の恋愛下手な所ばかり見ていたから忘れていたが。
 この子は元々は、クラスでも随一の巨乳であり、年齢に見合わぬ色香を持つ子であった。
 むつきのせいで最近それが封印され、そして今またむつきのせいで開放されていた。
(落ち着け、俺が慌ててどうする。今まで一体何人の……いやいや、思い出すな。少なくとも今は)
 思わず千鶴を前にこれまでの女性遍歴を思い出しかけ、軽く被りを振った。
 そして深呼吸して自分を落ち着けさせ、ボタンが弾けとんだシャツの中に両手の指を滑り込ませた。
 一つ一つボタンを外す暇さえ惜しいと、軽く力を入れてブチブチと強引にボタンを外していく。
 現れたのは狭苦しいシャツから解放された千鶴の胸であった。
 薄紅色と黒というコントラストで可愛さとエロさを重ね合わせたブラジャーに保護されている。
 しかしむつきの目からは、二つの胸が苦しい助けてともがいているようにも見えた。
 解放せねば、そんな使命感に駆られて千鶴の体を少し持ち上げて背中に手を伸ばす。
「先生、もう少し」
「大丈夫分かってる。ほら、な?」
「はい」
 綺麗にブラジャーのホックを外して、手探りしていたむつきを案じた千鶴に笑いかけた。
 それで安心したというのも変だが、千鶴は全てをむつきに預ける事に決めたようだ。
 ホックを外され緩んだブラジャーに手を掛けても、羞恥に頬を染めても強張る様な事はなかった。
 そんな千鶴を前にしてむつきはブラジャーを上にずらしていく。
 すると僅かな引っ掛かりを感じて、その手が止まる。
「ぁっ……」
 千鶴のぷっくりと膨れた乳首が、最後の抵抗とでも言う様にブラジャーの生地に引っかかっていた。
 気付いた千鶴は恥ずかしいどころではない。
 覚悟を何度決めても体が抵抗したか、はたまた単純に自分の性的興奮を見せつけられたような。
「本当、お前は可愛いな」
「やっ、だめ」
 愛い奴めと、勃起した乳首を指先で撫でる様に弄ぶ。
「先生に、触ら……ち、乳く、クリクリしないでください」
「しょうがないな」
 触れられるだけでも恥ずかしいのにと言いたげな弱々しい千鶴の言葉を受け入れる。
 ただし素直に受け入れるかどうかは別だ。
 そんなに脱がせられたくないのならと、ブラジャーの上から構わず自己主張する乳首に吸い付いた。
 乳首に吸い付くだけのつもりが、そのまま勢い余って千鶴の胸の中に突っ伏してしまった。
 あまりの巨乳に距離感を誤ったか、千鶴の柔らかさと体臭に包み込まれる。
 別に良いかと、そのままミルクを吸う様にはむはむと甘噛みを続けた。
「痛っ、くは……ぁっ、吸われて。お乳、先生に吸われて」
「普通は大きくする為に揉むんだけど、少し萎むぐらいまで俺がミルク飲んでやるからな」
「出ません。お乳張ってますけど、まだ出ないんです」
「心配するな。直ぐにでるようにしてやるからな」
 嫌々と被りを振る千鶴に、暗に妊娠をほのめかす。
 もちろん、むつきとて今直ぐにというわけではなく数年先のことだが、効果はてきめんだった。
「先生、どうぞ」
 乳首に引っかかっていたブラジャーの布地を指先で引っ張り、勃起した乳首までさらす。
 改めてむつきの目の前に現れたのは、自重で楕円に潰れた白い二つの乳房。
 薄紅色に色濃く染まった丸い乳輪とその中央にて自己主張する湿り気を帯びた乳首。
 千鶴の浅く速い呼吸に合せるように、ふるふると震えていた。
 千鶴の顔見知りや、すれ違い様にその巨乳を見た何人の男たちがこれをみたいと思ったことか。
 むつきだけに見る事はおろか触れる事さえ許された慈母の象徴である。
「いただきます」
「め、召し上んっ」
 意外な台詞は単純に切羽詰って口走ってしまっただけだろう。
 乳首を口に含まれキュッと吸い付かれて、中途半端に言葉が途切れてしまっていた。
 しかし聞いた、ちゃんと聞いたからとむつきは遠慮なく千鶴の今はまだ出ないお乳を吸った。
 甘噛みや舌で転がしたりせず純粋に、赤子がお乳を飲む様に一心不乱にだ。
「先生……」
 そこに不純さを感じず、いつの間にか自由になっていた両腕を千鶴がむつきの後頭部に回した。
 短く刈られた頭髪をくすぐったいと感じながら頭を撫でる。
「美味しいですか?」
「ん」
「左だけじゃなくて、右のお乳もありますよ」
「ん」
 促されるようにむつきは左の乳房を名残惜し気に口から離し、右の乳房へと口先を向けた。
 まだ濡れていない乳首を舌先で蒸らす様に舐め、硬くしこったそれを唇で挟み込んだ。
 お乳お乳と赤子が強請る様にである。
「ごめんなさい、まだ出ないんです。出る様になるまで、出る様に……」
 むつきと同じぐらい夢中になって呟いた自分の言葉で千鶴はほんの少しだけ我に返った。
 今まさにそうなる為の行為をしているはずだが、さらにその先の実感とでもいうのか。
 妊娠という事実が目の前に現れ、そして自分でしても良いかもと思ってしまったのだ。
 いずれ生まれてくる子供の為ではなく、それが出る様になったらこうしてむつきに飲んでもらいたいと。
(私、なんていやらしい。赤ちゃんの為じゃなく、先生の為に妊娠したいって、お乳が出る様になりたいって。いやらしい、いやらしい、いやらしい!)
 以前は、周囲から性的な視線にさらされ、むしろそういった考えは嫌っていたはずだ。
 何もかも愛という崇高な前提があり、快楽を前提とした営みなんてもってのほかと。
(でも、今は……)
 好きな人に体を差し出すことで、如何に自分が浅はかだったのか、子供だったのか思い知らされた気分だった。
 今のむつきは千鶴だけに心が向いている。
 友人や親友に手を出した世間的にはろくでなしの部類に入る人なのに、夢中になってくれるのが嬉しい。
 もっと自分へと振り向いて欲しい、男から見ていやらしい体に生まれた事を今は感謝できるぐらいに。
「先生、もっと。好きにしてください、何をされても。先生になら」
「良いのか、本当に凄いことするぞ。後で俺の顔をみれなくなっても知らないぞ」
「構いません。に、にん……」
 言え、言ってしまえと千鶴はそれを踏み越えた。
「妊娠しても構いません。先生、お乳が出る様にしてください。出るようになったら、赤ちゃんより先に味見してください。私のお乳を、飲んでください」
 女の子にそこまで言われて耐えきれる男などいない。
 ただでさえ千鶴の歳不相応な色香にまいりかけていたむつきの事である。
 初めてだからなどという遠慮が薄れていく。
 手始めに半端に脱がされていた制服のベストとシャツを引きちぎる様にボタンを外した。
 そのうちの一個がまた千切れ飛んだが、それぐらいに興奮していたとも言える。
「千鶴、優しくするつもりだったけど」
「良いんです。先生がそうしたいのなら、多少乱暴でも……」
「そんな簡単に言うなよ。男は狼なんだぞ」
「狼さん、私は好きです。乙姫むつきという名前の狼さんだけですけれど」
 本当にその言葉を期にむつきも振り切れた。
「千鶴ぅ!」
「きゃっ、ぁぅ!」
 咄嗟に彼女を抱き上げ、部屋の隅にて畳まれていた布団にまで連れて行く。
 広げる事はせずその場に座らせ、背中を布団に預けさせたのが最後の優しさだった。
 千鶴の胸の谷間に顔を埋めて自ら窒息死しそうになりながら、谷底にキスマークをつける。
 痛みを訴える様に千鶴の体が震えたが、もう止れないぐらいに興奮してしまっていた。
「先生、大丈夫ですから」
 さらに千鶴から抱え込む様に抱きしめられ、免罪符まで与えられてしまう始末である。
 ブレーキは元から踏む気がなく、例え踏んでも千鶴がブレーキオイルを抜いた二段構えだ。
「千鶴」
「先生」
 千鶴の谷間から顔を引っこ抜き、畳まれた布団に押し倒す様に伸し掛かる。
 そして隈なく千鶴を味わおうと唇を塞ぎ、左手で胸を揉み、空いた右手がその体を滑り落ちていく。
 乳房から唾液に塗れた乳首へ、お山を下りては肉付きの良いくびれを渡ってスカートへ辿り着く。
 互いに舌を絡ませ舐り合いながら視線が通い合った。
 瞳で合図を送られ、むつきはむっちりとした太ももを撫でながらスカートの奥へと手を伸ばした。
「んっ」
 手探りする指先で千鶴の肌とはまた別種の滑らかさを持つパンツの布地に行き当たる。
 指の動きが布越しに分かるのだろう、千鶴の瞳が涙を浮かべる様に潤んで揺れていた。
 肌と一体化したような滑らかさに交じる雑音の様なそれは、陰毛だろう。
 指の腹を往復させ、その存在を確かめ、また確かめていることを千鶴に知らせる。
「先生、もっと奥です」
「知ってる」
「いじわる」
 じょりじょりと陰毛同士を絡ませるように指で味わっていると、恥ずかし過ぎたのだろう。
 千鶴がむつきの手を取り、ここですと自ら案内した。
 先程まで陰毛の感触を味わっていた指先に伝わった感触は二つ。
 滑らかな肌と布地の間に突如として現れた谷間と周囲に広がる湿り気である。
「何も、何も言わないでください」
 むつきの腕を案内して直ぐに、千鶴はその両手で顔を覆ってしまった。
 千鶴がそう願うのならば、むつきは何も言うつもりはない。
 無粋に言葉を重ねて言う必要すらなかった。
 パンツの上に湿り気を広げる様に谷間に沿って二、三度指を這わせてから指を鍵爪状にする。
 肌にぴったりと寄り添うその生地との間に滑り込ませ、ブラジャーをたくし上げた時の様に寄せた。
「ぁっ、ぁぁっ……ふぁっ」
 スカートの奥で外気に晒された谷間の中に、むつきの指先が埋もれていく。
 指ぐらいならば余裕で飲みこまれるぐらいには濡れていたのだ。
 唇の様に分厚い大陰唇が舐る様に、その奥の膣口がさらに奥へとむつきの指を誘おうとする。
 しかしむつきは膣口には第一関節分だけ含ませ、馴染ませるように挿入を繰り返した。
 未通の千鶴の穴をほぐす意味もあったが、主目的はまた別にあった。
 千鶴のお願い通りにむつきが口を閉ざし、静まり返った管理人室内にその音が響き渡る。
 にちゃにちゃ、粘り気のある水音が千鶴の下半身、スカートの奥から絶えず鳴っていた。
「音を、先生……音を、ぁっ。そんな知らない、こんなの」
「知らないって、オナニーで指ぐらい」
「したことないんです。いやらし事を避けてたから、したことないんです!」
「えっ、あっ」
「ひゃぅっ!」
 千鶴の告白にまさかと驚き、思わず第二関節までずっぷりいってしまった。
「ぁっ……ぁぅ、いっ」
 だがそれだけで千鶴は軽く果ててしまったらしい。
 言葉にならないうわ言を洩らし、恐らくは初めての快感に頬を染めて酔い痴れている。
 元々潤っていた膣の奥からも新たな愛液がとろりと染みだし、むつきの手までもを濡らしてきていた。
「先生ぇ……」
「千鶴」
 愛液塗れではない左手で半ば放心中の千鶴を撫で、右手でスーツのズボンのベルトを外し始める。
 パンツごとズボンを降ろし、力が殆ど入っていない彼女の両足を抱え込んだ。
 背中は布団に抱き留められ、お尻も浮いているので畳で擦れたりはしないだろう。
 早くしろと急かす一物の先で寄れたパンツをずらし直し、割れ目にそっと添えた。
「入れるぞ」
「はい」
 流石に怖かったのか、千鶴がむつきの腕を掴んで来ていた。
 背中まで腕を伸ばす余裕がなかったのだろうが、むつきはそのまま全体重を掛ける様に伸し掛かった。
 布団に包まれ伸し掛かられた千鶴の中に、むつきの一物が強引にかき分けるように入り込んだ。
 ブチリと引きちぎれる感触のあとも乙女の割にはスムーズであった。
 それだけ千鶴の体は十分に孕める程に成長していたのだろう。
 どうぞどうぞと向こうから歓迎するように、むつきの一物を奥まで飲みこみ切ってしまう。
「い、痛い」
「大丈夫か?」
「少し、ほんの少し痛かっただけですから。でも、もう少しだけこのままで」
 二人の視界では確認する事もままならないが、破瓜の証が布団に落ちているのだろう。
 彼女が感じる痛みが、体の震えを通してむつきにも十分に伝わって来ていた。
 それが少しでも和らぐように、千鶴が痛みに瞳を閉じたり震える度にキスで慰める。
 さながらその様子は傷を舐めて治す動物のごとくだ。
 やっていることは原始からの行いである交尾なのだから、間違ってはいないのだが。
「んっ、先生……もう、動かれても大丈夫です。慣れてきました」
「そうか? もう少し、大丈夫だぞ。まだ俺を追い出そうって締め付けてる」
「先生こそ。私の中で凄くビクビクして……ふふ、体の繋がりで心が繋がる事もあるんですね」
「好きな人となら、いやらしいことも悪くないだろ?」
「好きな人とだから、癖になってしまいそうで。責任、とってくださいね」
 もちろんと呟き、千鶴の膣の圧力に押されるようにむつきはゆっくりと腰を引いた。
 痛みと快感の二重の刺激にうねる膣の動きを味わい、一物のカリ首で引っかきながら。
「だめ、抜かないで」
「違うよ、こうする。ため」
「あん」
 むつきが腰を引くたびに押し寄せる喪失感に千鶴が泣きそうな声で訴えたが、否定すると同時に突いた。
 少しだけ深く膣を抉り、肌と肌がぶつかり愛液が飛散する。
 先程は破瓜の痛みで味わい切れなかった挿入による快楽が襲い掛かった。
 オナニーすら未経験の千鶴にとっては太過ぎる挿入物だ。
 内臓全てが押し上げられるような苦しさと言葉では言い表せ切れぬ甘美な快感に艶っぽく歌ってしまう。
「続けるぞ」
「は、はい」
 大丈夫かと顔を覗き込まれ、頷きながらも千鶴はしっかりとむつきに抱き付く。
 腕だけでは離れてしまいそうで背中にまで手を伸ばし爪を立て、足はむつきの腰に回されていた。
 二度と離れたくないという意思表示の様に、限りなく密着しながら突かれ艶声をあげる。
「ぁっ、んぅ……先生、気持ち。良いです。ひゃぅ、おちんちん。こんないやらしい使い方をするモノがあの子たちにもついてるなんて」
「こうら、千鶴は俺のおちんちんの事だけ考えてれば良いんだ。強制的にそうしてやろうか? ほら、今千鶴がいやらしく咥え込んでるのは誰のおちんちんだ」
「やぅ、激しっ。ごめんなさい、先生だけ。先生のおちんちんだけです。千鶴はいやらしい下のお口で先生のおちんちんを咥え込んで。あぅ、ああッ!」
 流石に嫉妬した振りで、千鶴を攻め立てる為の口実に過ぎない。
 しかし初心な千鶴にそれがわかるわけもなく、おちんちんと繰り返し叫ぶのがより劣情を誘う。
「はぁッ、大きく。まだ大きくなるんですか?!」
「なるにはなるが、出そうなんだ。射精するぞ、千鶴の一番奥に。赤ちゃんの部屋に」
「はい、出してください。ふぁっ、好きなだけ。お乳が出る様に、妊娠させてください」
「出すぞ、妊娠させるぞ。千鶴を立派な人妻に、俺の妻に!」
「出して、先生のお嫁さんに!」
「千鶴ゥ!」
 お互いこれ以上ないぐらいに抱きしめあい、腰を密着させ合う。
 膣の一番深い場所にまで挿入されたむつきの一物が、子宮の入り口からありったけを吐き出した。
 濃厚な雄汁を塊ごとにドクンドクンと体を震わせながら流し込む。
 流し込まれる側の千鶴も呼吸を合わせる様に子宮の中でそれを受け止めたっぷりと蓄える。
 雄に支配される本能的な幸福感に満たされながら、次世代を孕む為にしっかりとむつきを掴み咥え込んで放さない。
「分かるか、千鶴」
「はい、私の中に先生の……精、子だ……えっと」
「呼び方は何でも良い。これでもう直ぐ千鶴もお母さんだ」
「私と先生の、んぅ」
 最後の一絞りまで吐き出され、二人の体の震えは一度はおさまった。
 行為の後の気だるさと互いの精臭に包まれ、キスや頬ずりで原始に返る。
「んっ、先生、私……頑張ってこの子を育てます。学業との両立は大変ですけれど。この子に胸を張れるように、頑張って」
「ちょ、ちょと待て。ん?」
 まだむつきが入り込んでいるお腹を撫でながらの千鶴の台詞にむつきの目が点となった。
「いやいや、俺の子供を産んで欲しいのは本心だけど。最低でも高校を卒業してからだぞ?」
「え、でも妊娠しろって言いましたよね?」
「千鶴、冷静になれ。流石に今直ぐは駄目だろ。俺が国家権力に正しく捕まっちまう。せめて堂々と出来るまでは我慢してくれ。絶対に責任はとるから!」
「あれ、え……」
 当たり前の事を当たり前に説明しているつもりが、何やら千鶴の様子がおかしい。
 妊娠しろって言ったじゃないかとヒステリックにならない辺り、まだ冷静ではあるのだろうが。
 お腹を軽く揺らしてたぽんと中に注がれたモノを感じて、さっと血の気を引かせる。
 思い切り中出しされている、むつきの精子、子種、男汁を。
 ギギギと油の切れたブリキ人形の様に首を動かし、半笑いで千鶴は告白した。
「あの、先生……私、超さんから頂いた避妊薬を飲んでないんですけど」
「え?」
「先生とはもう駄目になったと自暴自棄になっていたので」
 一瞬何を言われたのか理解しきれず、何故か意志に半身てまだ玉袋に残っていた搾りかすが注がれた。
「わー、ちょっと洒落にならん。てっきり飲んでるもんとばかり。抜く、今抜くから」
「抜かないで、まだ。もう少しだけ。どうせもう手遅れですし」
「そうだけど、その通りだけど。処置は早くしないと」
「いやです、先生との初めての。私の我がままを聞いてください」
「こら、しがみ付くんじゃありません。腰から足を外し、暴れるな中がうねって。うっ……毎日毎日どんだけ生成してんだ、俺の下半身は!」
 千鶴が暴れしがみ付き、うねうねとうねった膣に誘惑されまた出てしまった。
 頭で考えている事と下半身の行動がちぐはぐで、むつきは少し泣きたくなって来た。
 一先ずむつきは大声でいるであろう茶々丸の妹を呼びつけ、小鈴を呼んで貰う事にした。
 彼女が授業を抜け出し現れるまでに、何回搾り取られたかはむつきではなく千鶴の名誉の為に伏せておく。

第百三十七話 俺のところに来い

 次の日の月曜日、お昼休みも半分が過ぎた頃にようやくむつきは動き出した。
 那波は体調不良を理由に休んでいる。
 村上の方は登校しているのでまずは彼女からなのだが、会話すらできていない。
 最近は高畑が毎日来ているので、朝から二−Aに顔を出すことも減り、顔さえ見ていなかった。
 ようやく時間が出来たのが今。
 さよのお弁当を片手に、二−Aの教室の扉から覗き込む様にして村上に声を掛けた。
「村上、悪い。ちょっと聞きたい事があるから来てくれ!」
 村上の席は窓際の前から二番目、さよの後ろであった。
 既にお昼は食べ終わっているようで周囲から若干浮く形で、頬杖をついて外を眺めていた。
 位置的に遠く、またお昼休みの騒がしさに負けない様に声を張り上げる。
「…………はい」
 一瞬聞こえていなかったかと思うぐらいの間の後に、村上が返事をしながら立ち上がった。
 これ以上ないくらいに機嫌は悪いらしい。
 近くの席の鳴滝妹が驚いて前の席の長瀬の制服の裾を掴んでいるではないか。
 普通に考えて、今の今までむつきが顔すら見せにこなかったせいで間違いないだろう。
「そんなに時間はとらせない。そこの社会科資料室な」
 どうやら那波の事を聞く前に、村上のご機嫌を伺わなければならないようだ。
 とはいえ、お昼になるまでアクションを取れなかった理由位しか説明できないが。
 二−Aの教室を離れ、近くの社会科資料室の鍵を開けて村上を中にいれる。
 以前、少し掃除をしたので埃っぽさは鳴りを潜めているが、閉め切っているので少し暑い。
 ついでに空気の入れ替えと窓を開けてから、パイプ椅子を取り出し村上にも勧めた。
「悪い、朝から立て込んでて中々時間が取れなかった」
「それは、ちづ姉よりも大事なことなの?」
「難しい質問だな。ただの仕事なら多少は放り出したが……」
 村上の中学生らしい言葉に、腕を組んで考え込む様にしてむつきは答えた。
「土曜日の試合のおかげで、アキラと神楽坂をセットで取材したいって申し込みが殺到してたんだ。神楽坂の特待生の為にも、放っておけなかった」
「怒り辛い。明日菜とちづ姉どっちがってのも変だし。はあ、先生はやっぱり先生だね」
「何を当たり前のことを。それより、お前の方こそ日曜にあの話を聞かされて、こうして良く平気な顔で二人きりになれたな。多少、疑うとか。狙われてるとか思わないのか?」
 那波の事は気がかりだが、村上の肩をほぐす為に、もう少し会話を続ける。
 純粋にあまりにもすんなり二人きりになってくれた事に驚いたこともあるが。
「ちづ姉はずっと先生しか見てなかったけど、私は他にも見てたからかな。真剣に衣装について喋る長谷川さんとその衣裳部屋。柿崎も将来は美容関係に進みたいって聞いた。先生はいけないことをしたかもしれないけど、酷いことをしたわけじゃないって」
 昨日のひかげ荘の三階に足を踏み入れたことを思い出し、村上は自分で納得するように頷いた。
「私ね、正直に言うと以前は長谷川さんが苦手だった。私に構うなってオーラを四六時中出して、何考えてるのか分からないところがあって」
 千雨がそうしている理由を知ったのは、麻帆良祭前にクラスが分裂しかけた時だ。
 千雨と神楽坂の間接的ないがみ合いから、クラスの空気が負のスパイラルに陥った。
 そこであやかの提案で茶番を仕掛け、千雨の内心を暴露したあの時である。
「でも今は、長谷川さんともっと仲良くなりたいと思ってる。演劇と衣装造りで共通点もあるし、時々口は悪いけど面白い子だし。長谷川さんを変えたのは、先生なんでしょ?」
「うーん、どうだろ。千雨が変わろうと思ったのは千雨自身の考えだし、やり方はあやかとかが考えてたからな。どや顔で俺が変えたって言えるほど、うぬぼれてはない」
「でも切っ掛けぐらいにはなったんじゃないかな。柿崎が見つけたやりたい事も、あと……委員長のショタコンが治ったのも。保護欲と愛情をはき違えるなって言われた時は、思わず突っ込みそうになった」
 特にあやかの件は誰だってそうなる、むつきだってそうなる。
「柿崎たちに手を出した事はいけない事だとは分かってるけど。私が目で見たモノから言えば、皆が良い方向に変って笑ってる。ちづ姉を除いて……」
 まるで手放しでむつきを擁護しているかと思えば、最後にオチが待っていた。
 少なくとも、村上がむつきのただれた恋愛事情をどうこう言うつもりはないらしい。
 今は寮で心を静養しているであろう、那波に関して以外は。
 むしろ村上は、そこまで皆を幸せにできるなら、那波も幸せにしてと訴えているようにも見えた。
「那波の様子は、あれから?」
「昨日の夜は全く、私がトイレに行くのにも手を放してくれないぐらい。一緒に寝て、朝には少し落ち着いたみたいだけど。ベッドから起き上がる気力はないみたい」
 もう少し詳しく聞いてみたが、村上が用意した朝食を残したとはいえ半分は食べてくれたらしい。
 本当は看病という理由で村上も休むつもりだったが、那波から学校に行ってと言われたようだ。
 村上を送り出して、一人になりたいと思える程度には落ち着いたか。
 かと言ってそれは村上が相手であって、むつきやあやかと言った拒絶されたくない相手ではどうか。
「那波と会話したいが、そもそも会ってくれるのか」
「でも先生、ちづ姉と会って何を話すの? あんなちづ姉見てられないし、協力はしてあげるけど」
「会って、那波の意志を確認する。俺に出来るのはそこまでだ」
「ちづ姉の意志?」
 何故そこで微妙に受け身なのかと、本気で分からないという顔をしていた。
「俺の、俺たちの意志はずっと前から決まってるからだ」
「決まってるって、どういうこと?」
「お前たちが、ひかげ荘を知ったのはつい昨日の事だろ」
「うん、クラスの中では知ったのが遅いぐらいなんだよね」
「まだ知らない子は数人いるが。今年の四月からこれまで、俺たちは周りに隠して、二−Aの子に明かしてを繰り返して来たんだ。良くも悪くも慣れてるんだよ」
 那波については悪い方向に慣れが発生してしまったのでこの様だが。
 今までむつきがひかげ荘を知った子に求めて来た事は多くはない。
 まず第一に秘密の厳守、これについて今まで一番危うかったのが美砂ぐらいのものである。
 むつきに対する特別な行為がなければそれで終わり、しかしあるのならば。
「だから今まで通り、俺は那波に向かって両手を広げて来いって言うだけだ」
「なにそれ、そんなの来るわけ」
「美砂を筆頭に十何人も来たぞ。最近だと、のどかだな」
「皆、何考えてんだろ。どうしてそれで飛び込むの、さっぱりわかんない!」
 どちらかと言わずとも、村上の感性の方が普通である。
 俺も時々分からなくなると思ったむつきだが、黙っておいた。
「はあ……何回目のため息だろ。先生が今さら我が身を省みる事がないのは分かった。あとは、ちづ姉がどうしたいかだけってことだよね?」
「そうだな。那波がそれでも良いって言うのなら、俺は受け入れる気満々だ。美砂たちも。けど私だけをと言われたら、悪いが無理だ。俺はもう、誰か一人を選んじゃいけないところまで来ちまった」
「仮に一人を選んだら、先生が殺されちゃうんじゃないかな。くーちゃんに龍宮さん、刹那さんの武闘派三人にアタナシアさん、千草さんも。うん、殺されちゃうね」
「おい、楽しそうに言ってくれるな」
 何故か楽しそうに物騒な事を言われ、げんなりと肩を落とす。
 これでも苦労してるんだぞと思っていると、村上がパイプ椅子から勢いをつけて立ち上がった。
「私ちょっと午後は早退するね。上手く言っておいて」
「那波と話ができる様にしてくれるのか?」
「純粋にちづ姉が心配なのもあるけど、ちづ姉もまず決めないと。先生の腕の中に飛び込むのか、もう一度ほっぺたにキツイ一発を打つのか。乙女の初恋を砕いたんだもん。仕方ないよね」
「その程度なら甘んじて受けるよ。ただし、ひかげ荘の事は秘密にして欲しいが」
「ちづ姉が自棄になっても、それは流石に私が止めるよ。皆まで巻き込むのはちょっと違うし」
 認めたわけじゃないけどねと一言付け足し、村上は社会科資料室を後にした。
 バタバタと足音を立てて教室へと戻り、もう一度社会科資料室の前ですれ違う。
 鞄を手に走る姿はとても体調不良に見えないが、さてどういう形で報告するべきか。
 素直に那波が心配で何も手につかず、看病する為にという方が村上らしいだろう。
 小さくなる後ろ姿に頼んますとむつきは両手を合わせて祈っておいた。
 だから数十分後に泣きそうになった村上から電話が入るとは思ってもみなかった。
 寮の部屋に那波がいないと。









 夏場の熱気は何処へやら、十月半ばの涼し気な風が窓から吹き込みレースのカーテンを揺らしている。
 半そでの制服では肌寒いぐらいかもと思った那波だが、身じろぎ一つせず、テーブルの上の冷めた紅茶を見つめていた。
 その表情には覇気がなく、また紅茶の水面の揺れを見つめている事にも深い意味はない。
 何もする気が起きない、する気になれないのだ。
 ふと気づけばため息どころか、呼吸で胸が上下するのも気怠く感じてしまう程に。
(何もかも終わってしまった。終わらせてしまったわ)
 昨日まであれ程輝いて見えた世界。
 初恋の相手だったむつきの一挙一動に心が揺れ、自分がその隣に立てると信じて疑わなかった。
 しかし蓋を開けてみれば、自分は一体むつきの何を見て来たのだろうか。
 むつきの隣どころか、周囲には既にたくさんの女の子たちがいた。
 出遅れたどころの話ではない。
 自分がむつきを想って空回りをしている間に、二−Aのどれだけの子がむつきの胸に飛び込んだのか。
(雪広の娘である事を誇りに思っているあやかまで……)
 極普通の女の子であるのどかたちならまだ分かる。
 雪広という一財閥の娘という立場で、幾ら次女とは言え気軽に体を許して良いはずがない。
 一体どれほどの覚悟を持って、飛び込んでいったのか。
(私は出来なかったわ。いえ、飛び込むかどうか以前の話ね。先生と関係を結ぼうとした自分を棚に上げて、感情の赴くままに嫉妬の炎を燃やして、挙句……)
 昨晩の出来事が、那波の脳裏にフラッシュバックする。
 むつきに対し平手を振るい、止められぐうの音も出ない程に論破され、それでも止れず暴言を吐いた。
 息が詰まる、過呼吸でも起こしたかのようにふらつき那波はぐらりと体を傾けテーブルに手をつく。
 紅茶のティーカップが弾み、倒れそうなぐらいに傾き元の位置に戻ろうとカシャンと音を立てる。
(落ち、落ち着きなさい千鶴。ゆっくり……息を、ゆっくり)
 重くて邪魔な胸を押さえ、ゆっくりと息を吐いて吸おうと試みる。
(大丈夫。先生には呆れられ、嫌われたかもしれない。でも皆なら、あやかなら。夏美ちゃんだっている)
 初恋は予期せぬ形で失ってしまったが、一人では孤独ではないと言い聞かせる。
 中学生になってから一年と半年。
 あやかなどはもっと小さな頃から顔を合わせる中で、暴言一つで壊れる仲ではないはずだ。
 ちゃんと積み重ねて来たものがある、実家とは違うのだ。
「ふう……」
 呼吸の乱れを無理やり抑え込み、冷めた紅茶に口をつける。
「お待たせしてしまったかしら?」
「いえ」
「小さな子がなかなかお昼寝してくれなくてね。普段会えない平日に会えたものだから。お姉ちゃん、お姉ちゃんって」
 平常心に戻れたつもりでティーカップを置くと、部屋の奥から院長先生がやってきた。
 何時もと変わらない穏やかで物静かな眼差しでやれやれと笑っている。
 那波の姿は、足蹴く通っている孤児院にあった。
 特に意味があって、目的があって足を運んだわけではない。
「それにしても驚いたわ。千鶴さんが、こんな平日の昼間にふらふら歩いていたのだから」
「私も驚きました」
 実はお昼前にやはり学校へ行こうと起きて、制服に着替えたまでは良かったのだ。
 しかし寮を出て直ぐに足が駅に向かず、そのままふらふらと行く当てもなく歩きだした。
 このままじゃいけないと気力を振り絞ったは良いものの、長続きしなかったのだろう。
 今だって、院長先生を手伝い子供たちをあやしても良かったのに、お尻が椅子から浮かなかった。
 まるで夢遊病者の様にふらふらしているところを、院長先生に見つけられたのである。
「少し休ませて頂いたら、やはり学校に」
「良いのよ」
 行きますと言う前に、先んじて院長先生がそう呟いた。
 皺の奥にある優し気な瞳が、まるで小さな子をあやす様に繰り返す。
「気が向かない時に無理をすることはないわ。私も時々は、本当に時々よ。あの子たちの面倒をみる事に疲れてしまうことがあるわ。人間、好きな事でも、やらなくちゃいけない事でも嫌になる時ぐらいあるわよ」
「はい……」
 特別、なにか聞かれたわけではない。
 普通ならば、聞かれてもおかしくはないのにだ。
 院長先生は、子供たちのハイキングに託けてむつきと那波がデートをしていたことを知っている。
 実質、ハイキング中は那波がむつきの膝で眠りこけていただけだが。
 そんな那波が翌日にふらふらと学校へも行かずに、彷徨う様に歩いていたのだから。
「少し風が冷たいかしら、ちょっとごめんなさい。子供たちの部屋の窓を閉めてくるわ。何時までも夏のつもりじゃ駄目ね」
 そう言って今一度席を立った院長先生が、奥へと引っ込み、数分と経たずに戻って来る。
 本当に子供部屋の窓を閉めて来ただけなのだろう。
 椅子に座る前に台所からやかんを持ってきて、自分と那波の分の紅茶を入れ直してくれた。
「なにも、聞かないんですか?」
 湯気の立つ紅茶を差し出された時、ついに耐え切れなかったように那波が尋ねた。
「そう聞くのは、喋りたい事が何かあるのかしら?」
 質問に質問を重ねられ、ドキリと胸が跳ねる。
 喋られる、はずがない。
 むつきが自分の生徒達と、那波のクラスメイト達と付き合っていたなどと。
 しかもただ付き合うだけでなく、自宅に招いて淫らな行為を繰り返していた。
「いえ……」
 怒りも嫉妬も今はない、なのにどうしてだろう。
 秋の風よりも寂しく冷たい風が、胸にぽっかりと空いた穴を通り抜けていく。
「あら?」
 ぽとりと涙が一粒、零れ落ちた。
「やだ、止らない。すみません、なんでもないんです」
 慌てて目元を擦り上げるも、後から後から溢れ出して間に合わない。
 悲しさや寂しさなんて何も感じていないはずなのに。
 分からなくなった自分の感情が形になって目の前に現れた様にこぼれ続ける。
 一粒こぼれる度にそれを否定し続けていると、院長先生がいつの間にか隣にいた。
 肩に優しく手を置かれ、那波の泣き顔を覗き込む様にして微笑みかけてくる。
「人間はね、強すぎる感情を持つと自分でも理解しきれない時があるの。大きな絵を間近で見ると、何が描いてあるのか分からないみたいに。今の千鶴さんがそう」
「だって、もう大丈夫。平気なんです」
「じゃあ、どうして千鶴ちゃんは泣いているのかしら」
「わかんない。わかんない!」
 胸元で包み込む様にかき抱かれ、撫でられる。
 少し硬い手の平で撫でられながらちゃん付で呼ばれたからか、言葉遣いが幼くなった。
「泣きたい時は、泣いて良いのよ。無理に大人ぶって気持ちに整理をつける必要はないわ。大人になると、泣きたくても泣けないことが多いの。だから、今は一杯、一杯泣いて良いの」
「院長先生、私……私ね。やっぱり、乙姫先生のことが好きなの」
「ええ、知ってるわ。一緒にアップルパイも練習したわね。とても良い恋をしていると思っていたわ」
「でも、失敗しちゃった。一杯、一杯間違えちゃったの!」
 那波が一番悔やんでいるのは、自身の失敗である。
 突然のことで嫉妬が先行し、売り言葉に買い言葉でむつきを罵ってしまった。
 何一つむつきの事情を聞かないまま。
 むつきが本当に悪い大人で、自分の生徒を獣欲が赴くままに食い散らかす様な人であったのなら。
 那波に対しても、何度もチャンスはあったはずなのだ。
 なのに露骨なアピールも口説きもせず、那波の相談や我がままに嫌な顔せずいつも付き合ってくれていた。
 あれだけ自分の話を聞いてくれたむつきの話を、逆に那波は殆ど何も聞いていない。
 いや、聞こうともしなかったのだ。
「もっと私が、先生の話をちゃんと。だけどもう、嫌われちゃった。どうしよう、どうしたら良いの」
「あらあら、いつも大人ぶってる千鶴ちゃんらしくない。悪いことをしたと思ったら、どうしたら良いのかしら?」
「ごめんなさい、する」
「そうね、千鶴ちゃんも分かってるじゃない」
「でも、怖いの。許して貰えなかったら……」
 院長先生が優しく諭してくれても、結局のところ那波の感情はそこへ戻ってしまう。
 人一倍人に嫌われたり、疎ましく思われることが怖いが故に。
「その心配はきっと、いらないわ」
 老人特有の勘とでも言うのか、耳が遠いようで良いのだろう。
 よしよしと那波の頭を撫でながら院長先生が窓の外を見た。
 そこから見えるのは孤児院の塀に囲まれた庭先、視線はさらにその塀の外側に向いている。
 流石に塀の向こう側まで見通せているわけではないが、音で見えている様なものだ。
 遠くから段々と近づいて来るエンジン音、やや急ブレーキ気味にそれが塀の向こう側で止った。
 そこでようやく那波も、誰かが車を降りて慌てて走っていく音を耳で捕えられた。
「院長先生、那波が」
 門から飛び込み、窓からちらりと院長先生の姿を目に止めたのだろう。
 玄関に回ったり、挨拶する間も惜しんで声を掛けて来ていた。
 咄嗟に那波が院長先生の影に隠れようとしたが、もう遅い。
 窓にかじり付く様に身を乗り出したむつきの視線は、悪戯を見とがめられた子供の様な那波を見つけていた。
「良かった。やっぱりここか。心配したぞ、那波」
「心配?」
 へなへなと窓枠に上半身をへたり込ませたむつきの言葉に、那波がちらりと顔を覗かせた。
「心配、どうして……」
「どうしても、こうしてもあるか。那波、良いか。逃げるなよ、そこにいろよ。院長先生、ちゃんと捕まえておいてくださいね。本当に、お願いします!」
「ええ、もちろんです。玄関から、どうぞ」
「え、あっ……」
 抱きしめるでなく、キュッと捕獲された那波は逃げるタイミングを逸していた。
 いや、むつきの心配という言葉を聞いてそのつもりはなかったのだが。
 こう幼い子に向けて捕まえたとされるようにしては、逃げたくなるのが人間の性である。
「院長先生、あの……まだ、心の準備。私、目赤くなってませんか? 頬が腫れぼったいとか」
「今の千鶴ちゃんは、ウサギさんみたいなおめめよ」
「だめ、放してください。せめて、顔を洗わせてください」
「ふふ、暴れちゃだめよ千鶴ちゃん。お迎えが来たから、大人しくしてましょうね」
「あと、私もうそんな子供じゃありません!」
「あらあら、さっきまでわんわん泣いていた子が。大人ぶりたい年頃なのね」
 玄関から上がってからは、急ぎ足でやって来たむつきは呆気にとられた。
「なんだこれ」
 院長先生に子供の様に抱きしめられた那波が、放してくださいと抵抗していた。
 さながら祖母に歳不相応に可愛がられている孫のような光景である。
 とても情緒不安定になって寮を飛び出した様には、とても見えなかった。
「えっと、那波……迎えに来たんだが」
「先生、今の私。あの、ちょっと見せられない顔で。謝りたくても」
「なんでお前が謝るんだ? 謝るのはこっちだ。本当はもう少し落ち着いて話すつもりだったんだが」
 とは言え、院長先生がいるこの場でべらべらしゃべるわけにもいかず。
 かと言ってもうこれ以上は、話を拗らせたくもない。
 だから単刀直入に、むつきはとてもシンプルな行動に出ることにした。
 恐らくはこの程度ならと。
 ある程度、那波の気持ちを察しているであろう院長先生なら見逃してくれると思ったのだ。
「那波、千鶴……来い。この際、細かいことはさて置き。俺のところに来い」
「先生?」
 事前に村上に宣言した通り、むつきは両腕を広げた。
「顔をみられたくないなら、伏せたままでも良い。俺のところに来い」
「先生……」
「行きなさい、千鶴さん。貴方はもっと我がままになって良いの。言いたい事を、やりたい事をして良いの。自分の我がままを、気持ちを全力で受け止めてくれる人は貴重なのだから」
 昨日、村上にも同じような事を言われたはずだった。
 周りから年齢以上に大人に見られやすい那波は、自分からも大人の様な態度をとっていた。
 同じ年齢の妹分という村上がいたり、子供好きが高じて孤児院に入り浸っていることもある。
 周りの我がままや気持ちを受け入れる事はどんどん上手くなったが、逆に自分の気持ちを露わにすることが知らず苦手になっていたのだろう。
 そのつもりが本人になかったからこそ、余計に。
「先生!」
 だから一切の遠慮なく、那波は自分がしたい様にむつきの腕の中に飛び込んだ。
 抱きしめられるより先に自分からむつきの背に腕を回して抱きしめる。
「先生、好きです」
「おう、知ってる」
「それから、またアップルパイ作ったら食べてください」
「いくらでも、むしろ作ってくれ」
「もう少し強く抱きしめて、もう一度千鶴って名前で。そらから……」
「千鶴、これぐらいで良いか?」
「もう少し、もっと」
 本当は力が強くて苦しいぐらいだったが、我が侭が止まらなかった。
「それから、先生の事を教えてください。たくさん、たくさん知りたいです。逆に私の事も一杯知ってください。こんな我儘な私でも、受け入れて貰えますか?」
「こんな可愛い我がままなら、いくらでも聞いてやるよ」
「先生、そんなに何でも許されたら……本当に我がまま一杯言ってしまいます」
「それがお前の本心なら、受け止めるのが俺とあの場所の役目だ。そこのところも説明しないとな」
 あの場所と言われ、千鶴に思い当たる場所と言えば一つしかなかった。
 むつきの家、皆がたまり場として使っているひかげ荘である。
 何故自分の本心をさらけ出すことが、むつきのみならずその家にも関わって来るのか。
 皆が知っているのに、私が知らない事だと千鶴が頬を膨らませて拗ねる。
 むつきの肩口に顔を埋め、首筋にでも噛みつこうかと思ったところである事に気づいた。
「あの、院長先生……」
「あら、もう良いのかしら?」
 むつきの腕の中で必死に振り返ろうと首を曲げるも、その姿を見る事は叶わなかった。
 しかしからかいの成分のない純粋な問いかけに、まだ足りないとむつきを抱きしめ直すか迷う。
 最終的にむつきの腕の中におさまることを選んだ千鶴の代わりに、むつきが言葉にした。
「あー……院長先生、以前から察してはいたかもしれませんが」
「ええ、知っていましたとも。多少、たきつけた事もありますし」
「たきつけた?」
「いえいえ、なんでもありませんとも」
 むつきと千鶴を孤児院の倉庫に二人きりになる様に閉じ込めた事である。
 もちろん、それを知っているのは当人と千鶴の二人だけであった。
「俺と千鶴は教師と生徒ですが……できればこのことは見逃しては貰えないでしょうか? 千鶴、ほんの少しだけ待ってくれ」
 名残惜しげにする千鶴を宥め、一度抱き合うのを止めてむつきは院長先生へと頭を下げた。
 これには幸せ満開だった千鶴もハッと我に返る様に、むつきにならって頭を下げる。
 もちろん、勝算あってこそのお願いであったが、次の院長先生の言葉に血の気が引いた。
「さあ、どうしましょう」
 思わず下げた頭をあげて、そう楽し気に呟いた院長先生を凝視してしまった。
「そうね。では、こうしましょうか。千鶴さんも乙姫さんも、お互いに我がままを言い合って、受け入れ合って、幸せな恋人であり続けられるのなら見逃しましょう」
「それはもちろん、お約束します。千鶴の我がままをたくさん聞いて、俺も我がままをたくさん言います」
「院長先生、ありがとうございます」
「それでももし、なにか嫌になることがあればまたここに泣きにいらっしゃい。乙姫さんが迎えに来るまでは、匿ってあげるわ。どうにも乙姫さんはモテそうだから、時々はヤキモキさせてあげなさい」
 この人は千鶴のみならず、むつきの周囲にいる女の子たちの影でも見えているのか。
 千鶴は少し微笑んでからはいと答えたが、むつきは曖昧に笑うことしかできないでいた。
 それにしてもと、ふとむつきは思った。
 千鶴が孤児院に足蹴く通っていたのは、何も子供好きだったからだけではないのかもしれないと。
(案外、院長先生に理想の親の影を見てたのかもな)
 もちろん、あえて根掘り葉掘り聞くような事柄ではなかった。
 千鶴自身が無自覚かもしれないし、大事なのはそこではない。
 むつき以外にも我がままを言える相手、頼れる相手がいる事は悪いことではないのだから。