最終話その後(おまけ)

−スプリングフィールド家−

ムド・スプリングフィールド

 失明を理由に養護教諭を辞職、主に茶々丸に介護される生活を行なう。
 皆の夏休み中に魔法世界を観光し、フェイトの計画を皆に話す。
 計画の要である明日菜に反対され、フェイトから五年の猶予を貰う。
 五年の猶予の間に魔法世界で新興宗教を設立し、救いを求める者に完全なる世界を見せる。
 それから完全なる世界を望む者だけを救い、魔法世界は崩壊。
 後にフェイトを従者とし、世界を放浪し、誰も自分達を知らない国で村を作る。
 平穏な(性に乱れた)生活を送るも十八歳を過ぎた頃に、急激に体を悪くする。
 以後ベッドの上を行ったり来たりの生活に不安を覚え、慌てるようにアーニャと結婚式をあげる。
 享年二十八歳、妻や妾達に子供達、親友とその妻達に見送られ逝く。

ネギ・スプリングフィールド

 京都に到着後に拘束され、陽の光も差さない座敷牢に三年閉じ込められ、日々瞑想をして過ごす。
 お飾りの関西呪術協会の長におさまっていた木乃香の結婚話を聞き、脱獄。
 再び集まった従者達と共に魔法世界へ逃亡。
 アドリアーネに正体を隠し入学して、魔力も気も使えない代わりに知識を求める。
 魔法世界の崩壊、父の意志、超の目的に気付き原因と解決方法を探すも見つからず。
 次に封印された魔力を解放する方法を求め、こちらは数年で発見。
 事情を話して同士を集め、再び悪となり戦争を回避する為にも純粋な暴力を使う事を決意。
 再びテロリストと化して、全てのゲートを破壊し地球と魔法世界を分断する。
 従者や同士と共に崩壊する魔法世界に殉じ、火星に投げ出された人々を守る為に命をすり減らしながら生きる。
 享年二十五歳、火星での生存方法を確立して、立派な魔法使いと周囲に称えられながらその生涯を閉じる。

ネカネ・スプリングフィールド

 ムドの失明後も、陰日向にてサポートする生活は変わらず。
 従者の中では最大の五子をムドとの間にもうけ、育て上げる。
 作り上げた村では村長的な役割を果たし、以後村長は女性が勤める事になる。

アンナ・ユーリエウナ・ココロウァ

 年期が終了するまではきちんと寮長を勤め上げ、辞職。
 従者の中では唯一、ムドと正式に結婚式を挙げる。
 ムドの体調や年齢の事もあり、生んだ子供の数は一人きり。

ナギ・スプリングフィールド

 なんやかんやで始まりの魔法使いから解放された後、高畑学園長からネギとムドの死闘を聞かされる。
 寝込みがちになったアリカを高畑学園長に頼み、二人の行方を捜し求め、まずネギが火星に散った事を知る。
 次にムドの村を探し当てムドに会うも、共に暮らす気はないと拒絶ではなく単純に断られ、アリカを看病する日々を寂しく過ごす。

アリカ・アナルキア・エンテオフュシア

 我が子が殺しあう程に憎しみあった事を気にやみ、体調を崩して殆どベッドから起き上がれなくなる。
 未確認ながらネギの死と、ムドから共に暮らす気がない事をナギ経由で聞かされますます体調は悪化。
 事態を知った明日菜が自分とムドの子を連れて現れなんとか持ち直し、以降子をつくる事もなくナギと二人だけで麻帆良で過ごす。



−フェイト&ガールズ−

フェイト・アーウェルンクス

 ムドの五年の猶予という言葉を聞きいれ、全体の計画は遅らせるが、救いを求める者は順次完全なる世界に落とし始める。
 始まりの魔法使いの意志を全てかなえたわけではないが、救いを望むもの、生み出そうとする者等すみわけを行い求めた者だけ救う。
 魔法世界崩壊後は、正式にムドの従者となり新たな体を得た自分の従者達を引きつれ、共に皆で新しい居場所を求めて旅をする。
 とある場所に定着した後、葉加瀬の力を借りて従者達を更に人に近づけるように改造し、ムドと同じように子供を孕ませる。
 血が濃くなりすぎる危惧等からも、村にはフェイトの子供達も住まわせ、育てはするが後は神のみぞ知ると放置の構えであった。

フェイト・ガールズ

 全員がガイノイド化し、フェイトと同じようなだが少しだけ人に近い人形として生き、子供をそれぞれさずかる。
 アーニャの没後、子供や孫らは村に残し、エヴァと同じようにフェイトと共に旅に出る。
 世界を渡り歩き、戦災孤児等を村に連れ帰ったり慈善事業を行なったりし、地球に残った魔法使いから立派な魔法使いの認定を受ける。



−3−A−

相坂さよ

 和美に取り付いたまま、ムドの様々な旅に同行。
 長年共に行動したせいか、徐々に他の皆にもその姿が見えるようになる。
 最終的にムドの村を旅立つエヴァに取り付き生涯の友となる。

明石裕奈

 麻帆良祭の後に父親から正式の魔法の事を教えられる。
 興味はあったが父親から大反対を受け、ムドの従者は断念。
 その後ムド達は世間的に雲隠れしてしまい、亜子達と連絡が取れず大きく後悔すると共にファザコンを卒業する。

朝倉和美

 相坂さよを相棒に、完全なる世界にて情報収集を担当。
 村では外の情報が入らない為、外界の情報を伝える新聞を作成し続ける。
 他の従者と比べ村にいる頻度が低い為、生んだ子供は一人きり。

綾瀬夕映

 麻帆良祭後、正式に魔法生徒となりクウネルを師匠として修行し重力魔法を取得。
 ネギの脱獄に合わせ魔法世界へ、火星に赴いた際には重力魔法で生活環境を地球に近づける等行なった。
 再度従者にはなったが、ネギの意見に傾倒しない為に、最後まで恋人にはならず独身を貫いた。

和泉亜子

 ムドが設立した新興宗教にて、楽師として勧誘および宣伝を行ない魔法世界でちょっとしたアイドルとなる。
 村では極普通の主婦となり、時々村の子供達に音楽を聞かせ情操教育を行なう。
 男の子と女の子を一人ずつ生み、アキラの子と結婚してくれないかと考えている。

大河内アキラ

 亜子の音楽をバックに踊る踊り子になったが、亜子やまき絵にせがまれてであったが次第に満更でもなくなる。
 亜子と同じく極普通の主婦となるも、男手が少ないので力仕事をちょいちょい行なう。
 何故か亜子より多い四人の子供をもうけてしまい、亜子より実はムドに惚れていたのかと時々赤面する日々。

柿崎美砂

 麻帆良祭でのフェイトの事が忘れられず、彼氏とはその流れで破局。
 ムドのお見舞い等でも時々フェイトを見かけてアプローチする。
 ただフェイトガールズの妨害等あり、その想いは報われず終わる。

神楽坂明日菜

 フェイトの計画を聞いた時、一つの世界を簡単に滅ぼせるかと反対した唯一の従者。
 五年の猶予を貰い猛勉強をして原因を調査するも、結局は分からず断腸の思いで同意。
 ムドが集めた救いを求める者のみを完全なる世界に落とし、求めない者は放置する。
 反対を言った事で一時期まわりとギクシャクするも、猛勉強で本気を察して貰い解消。
 同時期にムドの子供を身ごもるが、それが同意の切欠ともなる。

春日美空

 何故かムドの食指に全く引っかからず、平穏を勝ち取った珍しい魔法生徒。
 クラスメイトの大半が行方不明となったのを知り、寿命が数年縮まる思いをする。
 だがその元クラスメイトという理由で、探して来いと世界中に飛ばされ、旅行気分で世界を放浪する。

絡繰茶々丸

 麻帆良祭後は、ムド専用の介護ロボットと化す。
 ムドが葉加瀬聡美から光を取り戻す眼鏡を貰ってからは、その負担も減る。
 しかし、再びムドが体調を崩してからは介護ロボットに逆戻りする事になる。

釘宮円

 特に何処かの犬ッコロと出会う事もなく、一生涯魔法と出会う事はない。
 極々普通の人生を送った珍しいケース。
 ただ中学時代の同窓会が出来ない事を残念に思っている。

古菲

 京都に向かって数日で実家から帰って来いと言われ無視するも、強制送還させられる。
 好きに生きたければ実力を示せと、二年半を掛けて師を含め、全ての兄弟子等を打ち倒す。
 再びネギの従者となり、火星に渡って以降は少ない材料でより高い栄養価を取得できる丸薬を超と楓と共に開発する。

近衛木乃香

 ネカネより、学園長がムドを二度殺そうとした事を知り、家族に対する不信感が増す。
 詠春の代わりに関西呪術協会のお飾りの長に祭り上げられそうになり、ネギの身の安全を代価に引き受ける。
 お飾りとなって三年後、強制的に有力者と結婚させられそうになったのを機に、ネギを伴ない魔法世界へ渡る。
 公私共にネギをサポートし、その子供を身ごもった唯一の従者。
 ただしネギについていった為、その後明日菜や刹那と対面する事は一生なかった。

早乙女ハルナ

 学生中は夕映の従者となるも、三年後のネギの召集には答えず普通に大学生となる。
 ネギに対する夕映のスタンスを知るが故に、せめて創作の中ではと二人を題材にした漫画を書き、某雑誌で大賞を獲得。
 強引にのどかをアシスタントに据え、二人で戻らぬ親友を一生待ち続ける。

桜咲刹那

 木乃香の護衛経験を生かし、新興宗教を起こした時に教祖であるムドの護衛となる。
 と本人は思っているが、身も心もムドの奴隷であるYESマンである為、他に使い道がなかった為でもある。
 子供は欲しいが奴隷としての時間が減ると長年葛藤し続け、子供を授かったのは従者内で一番最後。

佐々木まき絵

 夏休み開始までにムドの従者となり、亜子の音楽をBGMにアキラと一緒に踊り子となる。
 従者となる切欠は、オナニーに使用していたピンポン玉が秘所よりとれなくなり亜子に泣きつき、ムドがとりあげた事。
 子供は二人さずかるも、ムドの血か賢くこしゃまくれており、主に勉学方面で残念な人のように見られ涙目になる日々を送る。

椎名桜子

 持ち前のラッキーにより、重大な場面でのムドとの邂逅を尽く回避。
 円や美砂とは生涯の友達として、苦しい時の桜子頼みとして友情を続ける。
 宝くじの一等を当て続け世界を放浪、その最中に懐かしい感じがするとムドの村をナギより早く探し当て、円達に子沢山で幸せそうだったと告げる。

龍宮真名

 麻帆良祭後、フェイトの従者となり、完全なる世界の為に贖罪という形で協力する。
 ただし、罪の贖罪が世界の崩壊と、救いなのか破壊なのかとストレスを抱えて心をすり減らし続ける。
 最終的に少なからず自分を見失ってしまい、完全なる世界に落ちて憧れの人と幸せに暮らす。

超鈴音

 望んでフェイトの従者となり、人手不足の完全なる世界にその足りない人の手、田中さんVer.2を提供する。
 さらに魔法世界の崩壊と共に消える定めのフェイトガールズに、茶々丸のようなボディを提供。
 彼女らにフェイトの従者として認められるも、ムドの村には行かず、ネギと共に火星に赴き元火星人として頭脳を貸す。

長瀬楓

 お飾りの長となった木乃香の頼みもありネギを優先し、毒殺や言われない暴力に晒されないよう護衛する。
 三年後の脱走や、他の従者への渡りも楓が行い、ネギパの要として魔法世界でも尽力する。
 火星に赴いてからは、忍者、中国人、未来人の力を合わせ、火星でも生成可能な栄養補給用の丸薬を開発する。

那波千鶴

 魔法の存在は早い段階から知らされていたが、保母という自分の夢を優先させる。
 同様に放っておけば巻き込まれそうな夏美も保護し、演劇で人を悦ばせる事が好きな彼女に保母はどうかと進める。
 夏美と共に保母となり、いずれ自分達の保育園設立を夢見て日々懸命に働きお金をため続ける。

鳴滝風香

 ある日突然に、姉のような楓を失い悪い意味で史伽との仲が深まり、お互いに離れられない存在となる。
 高校に大学とそれなりの成績で卒業するも、史伽と一緒でなければとフリーターとなる。
 あまり安定した生活とは言えないなかで、保育園を設立した千鶴からまずはバイトで保母の手伝いをしないかと誘われる。

鳴滝史伽

 風香と同様に、別れというものを極端に嫌い、絶対に離れ離れにならないと言葉にして誓い合う。
 千鶴に誘われて以降、小さな保育園で保母の真似事をするが、当然の様に卒園という別れを経験する事になる。
 ただしそれは新しい生活への門出でもある事を知り、僅かながら突然の別れに対するトラウマが解消される。

葉加瀬聡美

 麻帆良祭にてムドが目をネギが腕を失った事を気に病み、マッドサイエンティストは卒業し、人の役に立つ事を第一に発明家を目指す。
 時折超に相談に乗ってもらいつつ、ムドには光を取り戻す眼鏡と、ネギには左腕の代わりとなる高性能な義手を送る。
 それを切欠に、ガイノイド技術を流用した高性能な義手や義足、義眼と言ったものを開発し医療分野の開発で歴史に名を残す。

長谷川千雨

 新興宗教の立ち上げに伴ない、亜子やアキラ、まき絵の三人を用いた宣伝等のプロデュースを引き受ける。
 主にアキラやまき絵の体調不良または懐妊次第で、代役として踊り子を務める事も。
 魔法世界崩壊後、ムドの村で主に生まれてくる子供達の衣服を作り、自分の四人の子供にも色々と服を着せて楽しむ。

エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル

 魔法世界ではあまり表立って動けず、主にフェイトの側で武力が必要な場合等に力を貸す。
 ムドの村では子供達に護身程度の魔法を教え、先生ではなくビッグマムと呼ばれ本人も満更ではない様子。
 従者の中で唯一子供ができず、確かな絆はムドとの逢瀬以外なかったが、没後ムドを永遠に引きずり込む事はなかった。
 死に際のムドから、どんな形でも首輪は似合わないと、子々孫々とムドの血縁を守り続ける必要はないと言われる。
 その言葉通り、一番最後まで長生きしたアーニャの没後に、霊体のさよと契約して従者、生涯の友として村を出た。
 ただし、ムドの命日には必ず戻る事にし、他の者の墓にも一緒に花を添え永遠を生きた。

宮崎のどか

 引っ込み思案な性格は以前変わらず、さらに夕映が行方不明となった事からそれが加速。
 ハルナは強引に誘ったつもりだが、アシスタントの話にのどかは飛びつき、たった一人の親友と放さない様にした。
 献身的な世話を受けてハルナも漫画以外の生活は駄目駄目となり、さらにのどかが世話を焼き、業界内でレズなのではと有名になる。

村上夏美

 千鶴と同じく、早い時期から魔法の事は知っていたが、単純に怖いという気持ちからあまり近付かないようにしていた。
 千鶴に誘われ保母になり、園児の散歩中に園児の一人が見つけた黒い子犬を拾い小太郎と名づけて家で飼う事に。
 その後人狼とのハーフである事を知るが、貴重な男手と一宿一飯を盾に労働力として保育園に迎えることに成功する。

雪広あやか

 三年後のネギの脱獄に合わせ、自分も魔法世界に行こうとするも親の手により失敗、後に魔法世界の崩壊を知り愕然とする。
 再び弟のような存在を失う事で無気力症となり、ベッドに寝かされた人形のような生活をしているところへ、千鶴が現れる。
 保育園設立の援助を頼まれ、その手伝いとして園児に触れ合うことで気力を取り戻し、雪広グループの福祉部門に就職する。

四葉五月

 麻帆良祭の後で魔法に関する記憶を消去されるも、そこまで深くは関わってはおらずあまり変わらない生活を送る。
 高校卒業後調理師の学校にて調理師免許を取得、麻帆良内にて日々平穏という和洋中、やや中に偏ったお店を開店。
 数少ない中学時代のクラスメイトが訪れ、愚痴や不安を聞きつつその手料理で心を癒す日々を送る。

ザジ・レイニーデイズ

 完全なる世界を真っ向から全て否定する者もおらず、普通に女子中、高校を卒業。
 特に行く当てもなくブラブラしていたところで五月に誘われ、日々平穏のウエイトレスに就職。
 サーカスで鍛えたバランス感覚を元に、皿を凄く積み重ねるウェイトレスとして有名になると共に五月と友情を育む。

月詠(例外)

 魔法世界に渡った後は、主にムドやフェイトの敵対者に対する暗殺者として多くの命を刈り取る。
 村では割と早期に子供を身ごもり、出産後には他の子供も含め、体の動かし方や望めば刀の扱い方を教える。
 特に自分の子供にはその意志をガン無視で神鳴流を教え、二人で刹那に嫌がらせをするなど、楽しい生活を送る。



−麻帆良学園の人々−

近衛近右衛門

 麻帆良祭にて怪我を負った時の治療順、肉体的な衰えから完治はならず、麻痺や幻痛が酷く寝たきりの生活となる。
 さらにムドの殺害計画をネカネ経由で木乃香に知られ、さらに詠春はネギを庇った事で錯乱したとされ長を引きずり降ろされた。
 せめて五体満足なら手は尽くせたが、関西に戻る事もできず、誰からも見舞いもなく、寿命が尽きるまで孤独な日々を過ごす。

高畑・T・タカミチ

 麻帆良祭後、意図せずしかも短い期間で正式な学園長となってしまい、さらにネギの失態と髪の毛をすり減らす日々を過ごす。
 若いみそらで巨大な組織、麻帆良と関東魔法協会と二足の草鞋は履けず、半年も過ぎた頃にすり減らした精神状態も限界に。
 誰かを幸せにする資格などと格好付ける気も起きず、しずなに結婚してくださいと土下座し、承諾されなんとか落ち着ける場所を見つける。

源しずな

 そろそろ諦めようとしていたところに、タカミチよりプロポーズを受け受諾、公私共にタカミチを支える。

ガンドルフィーニ

 ネギが仕出かした事を知り、おおいに凹み、少し自分の魔法使いまた教師としてを振り返る事が多くなる。

瀬流彦

 ムドを介護するネカネを見て、僕にも一緒に背負わせてくださいと告白するもあっさり撃沈。

葛葉刀子

 木乃香がお飾りの長となると共に、京都へと帰り、護衛相談役となる。

明石教授

 麻帆良祭後に裕奈に魔法をあかし、誰の従者にもなるなと魔法に関わるなと釘を打つ。

神多羅木

 特に変わらず

弐集院 光

 特に変わらず

シスター シャークティ

 得に変わらず

高音・D・グッドマン

 一族の大半が完全なる世界を了承した事にショックを受ける反面、ネギの考えに同調し火星に赴く。

佐倉愛衣

 麻帆良祭後、ムドの事が気にはなっていたが当人が養護教諭を辞職した事で、接点がほぼ零に。
 積極的な行動を何もとらないままムド達はいなくなり、中途半端なまま初恋かもしれない何かが終わる。



−赤き翼−

近衛 詠春

 京都に護送されてきたネギを座敷牢にという周りの意見を突っぱねようとし、さすがに乱心の烙印を押されて長を引きずり降ろされる。
 その後は軟禁状態になるも、お飾りの長を引き受けた木乃香から、麻帆良での詳しい事を聞かされ、罰は受ける必要がと叱られる。
 夕凪をネギにと伝え、木乃香を楽にする為にも組織とはと今さらながら学び始め、木乃香の出奔後、半お飾りの長に返り咲く。

アルビレオ・イマ

 八つ当たりでしかないのだが、戻ってきたナギに一発殴られるも、そもそもと正論を語りナギを黙らせる。
 起きてしまったものはしょうがないと、再びのんびりと麻帆良で司書をしつつ、夕映を弟子に招き重力魔法を伝授する。
 時々ナギやアリカを招待しては、自分がこっそり見ていたネギやムドの普段の生活を、二人に語る。

ジャック・ラカン

 テオドラから怪しい新興宗教がと調査を頼まれ、結果的にムドに接触し目的を聞きだすも、誰もが貴方のように強いわけじゃないと諭される。
 次にゲートポート破壊の件でネギに会い、一度はぶちのめすものの、二度目の邂逅で引き分けに持ち込まれ、三度目で完全に敗北する。
 ネギとムド、二度と出会わないはずの双子の間を行ったり来たりし、知恵や金銭、その他もろもろの手助けを行ない、魔法世界の崩壊と共に消える。
 ただし、時々気合だと言っては僅かな時間ながら火星に現れ、ネギを見守り、ネギ達の没後も度々火星に現れては火星人に気合を伝える。
 気合のおかげで火星人の生活はさらに楽になり、火星初の宗教として筋肉と気合の神様となる。
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第六十七話 全てが終わった後で

 麻帆良祭から一週間、振り替え休日を挟んで麻帆良学園都市は通常の営みに戻っていた。
 パレード後の残骸、主に紙吹雪や麻帆良祭の門、各部活の屋台等は影も形もない。
 学生一人一人の心の中に祭りの後の寂しさの余韻を残しつつ、新たなイベントに向けて動き始めていた。
 そんな麻帆良学園の中で、通常の営みに戻れないクラスもあった。
 女子中等部三−A、ネギが元は担任として受け持っていたクラスだ。
 一日の終わりを締めるホームルーム、その教壇に立つのはネギではなくしずなであった。
「はい、それでは今日も一日お終い。まだ学園祭気分が抜けない人もいるだろうけど、部活動の際には気をつけてね。それでは、以上」
「起立、礼」
 委員長であるあやかの号令で一同、礼を行って解散となった。
 ただし、何時もの賑やかさはなく、耳に聞こえるざわめきもどこか寒々しい。
 麻帆良祭前と比べ、明らかにその頭数が減ってしまっているからだ。
「ねえ、いいんちょ。結局、私らのクラスってどうなんの? 担任は……しずな先生が代理でしてるけどさ」
「解散してバラバラとかはないよね? 超りんに続いて、龍宮さんも突然転校で……」
「楓姉も、寮の部屋に帰ってこないです」
「部屋が寂しくて史伽と一緒に寝てるもんね」
 ほんの少しの真相を知る裕奈やまき絵、何も知らない史伽や風香が寂しそうに呟いた。
 とぼとぼと部活動に行こうとしていた面々まで、その言葉に足を止める。
 見つめたのは、誰にも座られる事がなくなった幾つかの席であった。
 表向きには急遽転校という事になった超と龍宮。
 そこまではまだ無理があるものの納得できなくはない、何しろ理由が転校だ。
 ただ担任であるネギが一身上の都合により退職したと聞かされている。
 さらに木乃香、古、楓までもが突如、一身上の都合で休校中だ。
 彼女達もこのまま転校してしまうのでは、などと実しやかに囁かれていたりもした。
「それだけはないと、学園長……高畑先生にお伺いをたてました。今から全クラスの名簿を作り直すより、三−Aから数人削除する方が早いというお考えもあるのでしょうが。解散はありません」
 毅然としたあやかの態度に誰もがほっと胸を撫で下ろす中、やはり疑問に辿り着く。
「実際のところ、ネギ君って何やっちゃったわけ? それにムド君、入院してるんでしょ?」
 こそこそとではなく、割と皆に聞こえる声で唐突に美砂がそんな事を言い出した。
 今さら隠さないのは、ネギが何かしら不祥事を起こした事をなんとなく皆が察しているからだ。
 それで話が広がるような事はなかったが、教室内がより暗い雰囲気になったのは言うまでもない。
「はいはい、柿崎。他人の不幸を面白がらない。さあ、帰るわよ。木乃香……はいないんだっけ。刹那さん、帰りましょ」
「はい、明日菜さん。途中でお土産を購入していきましょう」
 二人が教室を出る直前、亜子やアキラ、和美に千雨とムドの従者が集まり出す。
 この一週間、もはや日課となったムドのお見舞いである。
 あの麻帆良祭でのネギとの決闘の後、ムドは心肺停止状態に陥った。
 魔法障壁も張れず、気も扱えない体でネギの渾身の一撃を胸に受けたのだ。
 心臓がそのまま背中から潰れ飛び出さなかっただけ、奇跡とも言えた。
 ただし、胸の肉が吹き飛びあばら骨が露出して、心臓までも破れた胸の肉の間から見えていたが。
 もはやムドの体質云々を気遣う余裕もなく、ネカネが全力で治癒にあたった。
 外的な怪我こそそれで癒しはされたが、そのまま数日の間は昏睡状態となっていた。
「でも、今思うとアレは止めるべきだったわよね。心配で死にそうだったわ」
「そうですね。ただ今でも私は迷います。ムド様の命令を聞くべきか、あえて止めるべきか」
「止めるべきだったに決まってんだろ。そのせいであいつ……」
「一番荒れたのはエヴァっちだよね。そっちの方がもろ大変だったって」
 和美の言う通り、あの時その場にいなかったエヴァンジェリンが一番荒れてしまった。
 というよりも、影から現れて怒りに任せてネギを襲撃した。
 最強の魔法使いの怒りの前に、十数年しか生きていない少女達は無力そのもの。
 ムドの従者達は元々、治癒に忙しく庇おうという考えすらなかった。
 しばしネギが棒立ちでなぶられ、死の一歩手前で近右衛門が現れた。
 それでもエヴァンジェリンは止められない、さらには何故庇うと刹那と月詠が参戦。
 ひよっこ二人の参戦でも、エヴァンジェリン一人でも持て余していた状態である。
 瞬く間に近右衛門は、手足をもがれ文字通りだるまの状態に。
 後はネギも同じ運命というところで、ようやく待ったの声がかかった。
 あれを制止の声などと生温いものと言って良いのか。
 治療を一時アーニャに任せたネカネが、エヴァンジェリンを拳で殴ったのだ。
 暴走状態のエヴァを吹き飛ばすには至らずも拳で受け止め、ただ一言治療の邪魔と。
 そしたら、エヴァンジェリンが自分が仕出かした事を理解し顔を青ざめさせぽろぽろと涙を零し始めた。
 ネカネはそんなエヴァンジェリンを完全無視して治療を再開。
 そこで一斉に皆が我に返り、木乃香が真っ先にアーティファクトでネギを治療する。
 その後に近右衛門の治療に掛かったが、アーティファクトがなければ力量が足りな過ぎた。
 近右衛門の治療はムドの治療を一通り終えた後で、ネカネが引き受けた。
 もちろん、エヴァンジェリンや刹那、月詠の行動を全て不問とし、さらにネギの行動全てを証言する条件の元に。
 それはネカネに都合の良い条件ではあったが、とある真実を告げられた木乃香に断る術はなかった。
「結局、憎しみあってたのか求め合ってたのか。本当、わかんないわよね。双子ってそういうものかしら、今度鳴滝姉妹に聞いてみようかな」
 そう明日菜が呟いたが、兄弟でさえいる者が殆どおらず答えられる者はいない。
 ただ鳴滝姉妹はきっと小難しい事は考えていないというのが、皆の意見でもあった。
 途中にある学生用スーパーに寄って適当なお菓子でも買って病院を目指す。
 その道すがら、改めてあの時如何するべきだったのかと各々思いをめぐらした。
 やや刹那は忠義が厚すぎて迷ってはいたが、大半は止めるべきだったと呟く。
「ウチ、中学卒業したら……高校行かずにムド君のそばにおろうかな?」
「凄く喜ぶだろうけど、もう少し考えよう。そもそも、どうやって親に説明する?」
 亜子の呟きを少なからず同じ気持ちだとしつつも、アキラが難しいと指摘する。
 だが実際には、ムドの介護は事足りていた。
 エヴァンジェリンは全く学校に来ておらず、茶々丸も同様であった。
 そこへさらに暇人の月詠と三人で、一日中ムドの病室に詰めている。
 エヴァンジェリンと月詠に介護ができるはずもなく、主にしているのは茶々丸だが。
 極一部の体の世話という意味では、一応二人もしていた。
 それはそれでずるいと、皆で喋りながら病院へと辿り着き、病室を目指す。
 この一週間、何度も訪れている為、場所は完全に覚えてしまっていた。
「ムド、入るわよ」
 特別に学園側から用意されたVIP用個室の扉の前。
 軽くノックを行ってから、明日菜は病室の扉を開けた。
「うん、そろそろだと思ったわ。皆、ゆっくりくつろいでね?」
「お帰りなさいませ、皆様」
 一番に明日菜達を出迎えたのは、花瓶に花を挿していたネカネと茶々丸であった。
 二人共、今さら突っ込みはしないがお揃いのメイド服姿である。
「今日もお疲れ様です。ちゃんと勉強してきましたか?」
 その次に、ムドがベッドの上に座った状態で振り返り、明日菜達を見て笑った。
 ただし味気ない薄い水色の病院服を着て、目元には厚く包帯が巻かれている。
 一般的に言う、瞳でモノを映し込んで見たわけではない。
 エヴァンジェリンとの修行にて得た、視覚以外の感覚を使って見ただけだ。
 それがあの決闘の後でムドが患う事になった後遺症であった。
 左腕に頬骨、あばら骨が折られ、特に左腕には痺れを伴なう麻痺が残っていた。
 さらに胸にも肉をえぐり破壊され、挙句焼かれた火傷の跡もある。
 だがそれら全てを合わせても、目が見えなくなった事に対しては小さな事であった。
 ムドの瞳は魔力の暴走による熱に関わらず、白く濁りきったまま。
 その瞳はもう二度と、何かを映す事はないとの医者の診断であった。
 怪我については特に敏感な亜子が目をそらしそうになったが、明日菜が察して軽くお尻を叩く。
「あんた達、今日はムドに悪戯してないでしょうね」
 そして軽くおどけるように、ベッドに上がりこんでいるエヴァンジェリン達に突っ込んだ。
 アーニャはまだ皮を剥いた林檎を食べさせているだけなので良い。
 ムドの足に跨り、正面向き合っているのもまあ病人ではないのでギリギリ良しとしよう。
 駄目なのは、エヴァンジェリンと月詠である。
 本当に一日中ムドに張り付いて離れず、隙あらば体で慰めようとするのだ。
 それだけムドを失いかけた事が心の傷になっている事もあった。
「ええい、拳を握り締めるな。今日はまだ、朝のお勤め以降一回もしてない」
「夜のお勤めでは、特別濃いのが拝めますえ。ウチ、待ち遠しくて待ち遠しくて」
 こういう事については二人共いまいち信用がなく、明日菜は懐疑的であった。
 だがとりあえず、ムドの瞳に関しては皆の同様も多少収まったようである。
「さすがのムド君も、一日中搾り取られたらちょっと精液薄くなっちゃうんだよね。和美さんってば、濃厚なのが良いな。危うく妊娠しちゃうぐらい」
「ほんなら、これから皆で回し飲みして、確かめてみいひん?」
「ほら、エヴァも月詠もその場所かわれよ。もう十分だなんて言わねえけど、夕方から夜の間ぐらいは譲ってくれ」
「千雨ちゃんはまだしも、亜子それは本末転倒」
 本当にあんた達はと拳の矛先が、エヴァンジェリンや月詠から和美達へと移行する。
 止めたのはやはり、まだ恥じらいを捨てきれない明日菜やアキラばかり。
 一応は病室で暴れるわけにもいかず皆思い思いの場所に座り込んだ。
 それからさあお喋りと行く前に、再び病室の扉がノックされた。
「はいはーい、開いてますよ」
「やあ、失礼するよ。おそろいのようだね」
 扉を開けたのは、相変わらず髪を黒に染め上げ伊達眼鏡をしたフェイトであった。
 その後ろには栞達従者に加え、今回の事件の張本人である超と真名がいた。
 二人共に、現在は関東魔法協会の本部にある牢屋にいるはずである。
 それが何故、事件を止めたフェイトと共にいるのか。
「皆様、お飲み物はいかがなされますか?」
「いや、長居するつもりはないよ。僕は最低限の報告をしに来ただけだから」
 茶々丸を制して、扉から一歩入り込んだ場所でフェイトが続けた。
「彼女達はの身柄は、正式に僕が貰い受けたよ。色々と揉めたけどね」
「揉めるまでいきましたか。超さんを止めたのは、フェイト君なのに……」
「本当です。自分達の無能を棚に上げて、失礼な話です」
「それは仕方ないネ。所詮、フェイト君はよそ者。自分達の庭で大きな顔はされたくないのが人情ヨ。しかもネギ坊主の離反の件も、問題は目白押し」
 栞のみならず、調達も一様に憤りの様を見せていた。
 そんな彼女達にフォローならぬ、フォローを行ったのは超である。
 事の原因がやや無責任ながら、肩を竦めて学園側に同情していた。
 何しろそのネギもまた、今でもまだ地下牢に閉じ込められているのだ。
 それに付き合ったのは木乃香と古、楓の三人。
 あやかもそれに倣いたかったが、実家やクラス委員としてのしがらみが許さない。
 夕映は、共にいる事だけが従者の役目ではないと牢には入らなかった。
 ハルナは相変わらず、そんな原稿も書けない場所は嫌だと、とても正直に言っていたが。
「それで、超を手放したのなら坊やの処遇はどうなった?」
 今回の騒動で、一番の重傷者はムドであった。
 ネギや近右衛門も重傷者ではあったが、普通に治療魔法を使えば傷は簡単に癒える。
 最も、二人共に癒えきらない深い瑕は確実に残されていたが。
 他は超の計画のおかげで、怪我を負ったとしても擦り傷等軽傷者ばかり。
 甘い罰では許さんとばかりに、睨むようにエヴァンジェリンはフェイトを見た。
「魔力を永久封印した上で、さらに魔法世界の本国に送還。そこで捌かれる予定だった。もちろん、魔法学校の卒業資格は取り消し。在籍していた事実すら抹消するらしいよ」
 期待通りの重い処罰に、満足気にエヴァンジェリンは頷いていた。
 だが特にネカネやアーニャは、ネギとの付き合いが長いせいか顔を曇らせている。
 しかしながら、フェイトはだったと過去形で述べていた。
「そこは、元学園長が粘ると思ったのですが」
「その通りだよ。元学園長が粘ったけれど、孫娘がネギ君に加担しているから説得力に欠ける。本人達も裁きを望んでいた」
 どうも無罪に近い形に持っていこうとしたのは、近右衛門一人らしい。
「彼には今回の責任の事もあるしね。罪状の殆どは覆らなかった。ただし、移送先が京都に変更された。日本で起こした犯罪は、その国の機関で裁くべきとね」
「魔力が駄目なら、気ですか。やり口があからさまですね」
「詠春はんから、神鳴流でも習わさせるおつもりでっしゃろか。それにしても、関西呪術協会の出のくせに、関東魔法協会の会長を勤め、どの口でそんな事を言い張ったんやろ」
 刹那や月詠が呟いた通り、学園長の狙いとしてはネギの再起を見込んでの事だろう。
 それに本国に送って裁きが下されない可能生はかなり高い。
 魔法学校はネギの存在の抹消に動いたが、本国は事件の抹消に動く可能生が高いからだ。
 ならば元学園長の言う通り、関西送りにした方がまだきちんと裁かれる可能生があった。
 ただし、その再起の目論見が上手く行くかどうかは定かではない。
 エヴァの襲撃により体に追った後遺症等もあるし、ムド同様に健常者とは言えない体だ。
 さらにネギがそれで改めて力を得たとして、思い通りその後動いてくれるかという事だ。
「ふふ、そう上手くは行かないだろうな。一度、ネギ先生と顔を合わせる機会があったけど、もはや別人だ。彼はこれから化けるよ」
「散々私に操られたんです。その辺りは過敏になるでしょうね。まあ、どうでも良い事です。もう二度と、会う事はないでしょうから」
 真名の少し楽しみだという言葉を、ムドは否定こそしなかったが放り投げた。
「そうだね。事実上、ネギ君は京都に永久追放。麻帆良学園への立ち入りはもちろん、ムド君との接触も禁止。今日にでも、直ぐに追放だそうだ」
「逆に言うと、最後に会えるのは今日だけ。ネギ……」
「本当に馬鹿なんだから……」
「二人共、会ってきても良いですよ?」
 ムドから光を奪ったとはいえ、やはりこの二人はネギが気にならないはずがない。
 ネカネにとってはやはり弟の一人であり、アーニャにとっては義理の兄にもなる存在だ。
 そんな二人へと許しを与えるように、会ってくればと言ったのはムドであった。
「それから、皆も。恐らく京都へは、木乃香さんはもちろん、古さんや楓さんもついて行くでしょう。私は彼女達とも二度と会うなとは言いませんが、長い別れになるのは確実です」
「ウチは、そない仲良くもありませんし遠慮しときます」
「私もパスだな。坊やを見たら、くびり殺しかねん」
 早々に行かないと言ったのは、そこまで思い入れもない月詠とエヴァンジェリンだ。
「なら、私は木乃香に会ってこようかな。二年と少し、一緒に暮らした仲だし」
「そうですね。お嬢様とは、これで護衛も解消。一つ、ここでまたただのお友達に戻るのも悪くはありません。ケジメを付けてまいります」
「こんな急って事は、クラスの皆には内緒って事か。こりゃ、久々にネギ君への言葉を記者としてクラスの皆に届けてあげますか」
「ウチも、行こうかな。お別れのチャンスがあるのにせえへんのは、おかしいし」
 概ね、皆はお別れをしに行く事には賛成のようだ。
 ただし、ネギにとは誰も言わなかった。
 和美もクラスの事情を知らない人の為にと、割り切っての言葉である。
 やはり愛するムドの光を奪ったという点については、遣る瀬無い気持ちもあるのだろう。
 何しろ今後どう着飾っても、その姿を瞳に映し出し綺麗だとは言って貰えないのだ。
 それでもムドなら察して言ってくれそうだが、確実に恋人としての幸せを一つ奪われた。
 アキラや千雨も、二年間付き合ったクラスメイトだしと木乃香達の為に行くと言った。
「そこまで急いで決めなくても良いさ。出立まで少しぐらい時間はあるだろうし。むしろ、僕らの方が先さ」
「そうですか。魔法世界へ……一緒に遊ぶ事もできませんでしたね。次は、麻帆良を案内しますね」
「十分、楽しんだよ。それに約二ヵ月後、夏休みに入ったら、今度は僕達が案内する番さ」
「ええ、その時はお願いします。超さんと真名さんも、ちゃんとフェイト君のいう事を聞いてくださいね」
 そう注意したムドに、二人が含み笑いをしながらとあるモノを見せた。
 それぞれ一枚ずつ、手の平サイズを超える大きさのカードをだ。
「敗者は勝者の言いなり、もう私にはフェイト君の言う事を聞くしかないネ。未来に帰ろうにも、二十二年後まで待つしかないヨ」
「私も、そうしなければ牢獄行き。窮屈な生活よりは、過激な生活を選ぶさ」
「おいおい、まさかもうやられちまったのかよ」
「まさか、そこまで尻軽じゃないつもりだ。最も、彼次第でもあるけどね」
 千雨の突っ込みに、微笑を真名は浮かべてカードを唇に当てた。
 まだ唇だけで、体は許した様子はない。
 ただ彼女達の後ろで、やや栞達が不満そうにしているので彼女達と打ち解けるのが先か。
 想う男の違いと僅かだが共に遊びもした事から、仲の良さで言えば亜子達の方が上であった。
「焔ちゃん、またね。なんだか私達、魔法世界にそのうち行くみたい」
「ああ、案内してやる。楽しみにしておけ」
 アーティファクトの貸し借りをしたアキラと焔は、特に友好的だ。
 一応は月詠と栞も貸し借りをした仲だが、栞は非戦闘員なのでそこまで気を引けなかったらしい。
 少し寂しそうに栞が小さく手を振ると、少し考えてから月詠も振り替えしたぐらい。
「それじゃあ、ムド君また。有意義な数日だったよ」
「いえ、お構いもできず。また会いましょう」
 ずっと扉から一歩入った場所にいたフェイトが、ベッドの上にあったムドの手を握った。
 主同士のお別れの握手を見て、明日菜達もそれぞれ栞達にお別れを言い始めた。
 もちろん、二年連れ添ったクラスメイトの超や真名にも。
 木乃香達とは違い、再会が約束された別れではあるが、それでもだ。
 そうして皆がお別れの挨拶を交わす中で、ネカネとアーニャはまだ迷っていた。
 ネギの見送りへ行くべきか、どうするべきかを。









 魔法先生の監視の下、支度を整えたネギはバッグを背負い駅の改札の前にいた。
 魔力が一切封じられた今、背負ったバッグの重さが肩にズシリと来る。
 今のネギは正に十歳児と同じだけの力しか持たない。
 全くの無力な子供に成り下がっていた。
 いや、それ以下でもあった。
 利き手である右手は麻痺して動きはするが殆ど物を握れず、拳も握れない。
 左腕は千切れた直後に凍らされ砕かれ消失し、最接合の為の腕がそもそもなかった。
 同じように左足も反応は鈍く、やや引きずるようにしてしか歩けないでいた。
 魔力を封印され魔法使いとして死に、身体的にも多くのハンデを追って拳法家としても死んだ。
 それでもその顔に後悔というものはない。
 少なからずこうなると理解して、それでも自分で決めて行動した結果なのだ。
 そして振り返って、二度と見る事のない麻帆良都市学園を眺める。
 赤焼けに包まれている事もあり、様々な思い出が脳裏に蘇り始めた。
 新しい生活を前に、決意に満ちてやってきた初日。
 教職にてんやわんやの中で、挫け挫折し、改めて決意をしては無力を悟ったり。
 最後には守るべき弟から光を奪い、自分が罪人である事を決定付けた街だ。
 ふいに強めに流れた風が、ネギをよろめかせた。
「おっと、気をつけてなネギ君。重いなら、もう少し荷物を持つえ」
「大丈夫です。ありがとうございます、木乃香さん」
 同じくバッグを持っていた木乃香に支えられ、お礼を返す。
 今のネギが背負えるバッグは小さく、既に多くの荷物を持ってもらっている。
 父であるナギの形見の杖も、布に包んで楓に持ってもらっていた。
 バッグの中も少し隙間ができるぐらいで、コレぐらいは本当に持たなければならない。
「寂しいものでござるな。別れも告げられず、住み慣れた街を離れるというのも」
「超と立場が逆になってしまったアルな」
「超さんは既に寮を出たようでしたわ。龍宮さんも、本当に皆バラバラですわね」
「仕方ないです。我々は、それだけの事をしてしまったのですから。我々だけではありません。何も知らないクラスメイトにも、多大な迷惑を掛けた事を理解すべきです」
 ネギと同じように楓や古も、別れを告げる麻帆良学園都市を眺めていた。
 見送る側のあやかは寂しそうに呟くも、夕映がばっさりとその言葉を切り捨てる。
「あの……やっぱり、僕は一人で京都に」
「ウチらは自分の意志でネギ君についてくって決めたんよ。いくらネギ君でも、そこは変えられへんよ。居候先は、ウチの実家やしな」
 ネギの頭をコツンと叩き、視線の高さを合わせた木乃香がそう言った。
「それに今のネギ坊主では、己で身を守る事もできない状態。しばしの間は、拙者らに身辺の警護は任せるでござる」
「一緒に来れない、夕映やいいんちょからも任されてるアル。大船に乗った気持ちでいると良いアル」
「ま、挫折は何時もヒーローの成長フラグだよ。私はそこまで付き合えないけど」
 ついつい何時も通りの調子で古が背を叩いてしまい、ネギが転びかけてしまう。
 慌てて木乃香が支えなおし、その重みを胸で受け止め微笑みかける。
 あの後、牢屋の中で散々話し合ったのだ。
 ネギは自分一人が罰を受けるべきだと主張した。
 突然の仮契約解除もその為であったと言ったが、木乃香達はもう決めている。
 契約という形はもう無理でも、添い遂げるつもりでネギについていく。
 ネギの今後の人生は贖罪の二文字で費やされる事だろうが、それでも構わないと。
「ありがとうございます」
 ネギは他に何も言葉は言えないでいた。
 何もかも捨てたつもりでムドに挑み、結局は巻き込んでしまった。
 全ては独り善がりの勝手な思い込みでしかなかったのだ。
「京都でもう一度、やり直そうと思います。もう二度と、立派な魔法使いにはなれませんけど。どうにかして父さんだけは探します」
「拙者達も、今一度修行のやり直しでござる。心身ともに、馴れ合いではなく仲間が間違えた道を歩んだ時には、止められるように」
 木乃香は間違えようとするネギを寧ろ推奨し、あやかもまたネギの言いなりであった。
 古はネギよりで、戦いの為にはと自分に言い聞かせその考えに乗っていた。
 夕映はネギを止めようとしたが、そもそも力が足らず。
 楓は力こそありはしたが、その力を行使する事を戸惑ってしまった。
 ハルナは例外中の例外、ネギの考えにそれ程は興味がなく、楽しければ良い。
 本来はハルナが一番良くはないはずが、今回ばかりはこれが良いほうに転がっただけ。
「では、そろそろホームの方へ」
 学園長派でも高畑派でもない、中立の魔法先生がネギ達をそう促がした。
 京都駅まで護送し、そこで連絡を取り付けていた関西呪術協会に引き渡す予定だ。
 見送りは誰一人としていない。
 あくまでネギは罪人、実際は学園を追放処分なのだ。
 ネギは最後に混乱させたであろうクラスの皆がいる寮がある方角へと頭をさげた。
「行ってきます。いいんちょさんに夕映さん、それからハルナさん」
「ついて行く事はできませんが、何時もネギ先生の事を想っていますわ。ネギ先生、お元気で」
「私は引き続き麻帆良で魔法を勉強しようと思います。そして、きちんとした魔法使いになれた時には、ネギ先生をお迎えにあがるです」
「一先ず、私は夕映の従者かな。迎えの時に私はいないかもしれないけど、まあ元気でね」
 ネギのみならず木乃香達とも別れを惜しみ、やがて改札へ向けて歩き出す。
「木乃香!」
「このちゃーん!」
 そんな四人を止めようとする声が、遠方より現れた。
 手を振りながら走ってくるのは、明日菜達ムドの従者をする者達であった。
 その中には、ネカネやアーニャの姿もある。
 ただし、まだ入院中のムドの姿は流石に何処にも見当たらない。
「せっちゃん。明日菜に亜子達も」
「はー、走った走った。でも間に合って良かったわ」
「亜子しっかり」
「おい、お前らと違って私は一般人なんだ。背負ってくれても良かっただろ」
 ネギ達の目の前で、特に千雨が膝に手をついてぜえぜえと息をついていた。
「木乃香、元気でね。京都だから気軽には合えないけど、連絡は何時でも取り合えるから」
「私の護衛はこれまで、今日からは極普通の友達です。これを長にお返し願います。いずれ、これを握るに相応しい人がこのちゃんを守るはずです」
 刹那が木乃香に手渡したのは白木の拵えの野太刀、夕凪であった。
 今の刹那の一番が木乃香でない以上は、ただの重石以上の意味もない。
 誰かと特に名指しはしなかったが、受け取るべき人は他にいるはずだ。
「ん、これで護衛とか肩書きもなし。ただの中学生、木乃香と刹那の誕生やね。お父様にはうちから返しとく」
「うちの一番はムド様や。けれどこのちゃんが、大切な友達である事には変わらへん。それだけは覚えといて」
 木乃香もその相応しい人に心辺りがある為、理解してそれを受け取った。
 ただし現在のネギは左腕もなく、右腕には重度の麻痺が残る状態。
 聞き様によっては皮肉ともとれるが、誰に渡すかは木乃香の意志も含め決めれば良い。
 夕凪に関わる話にて、少なからずネギは木乃香の意志が自分に向いているのを感じていた。
 だが刹那を始め、誰一人としてムドの従者である明日菜達はネギを見ようとしない。
 当たり前だが恨まれ居心地の悪さを感じていると、とあるものを目の前に差し出された。
 和美が普段から持ち歩いているレコーダー付きの小型マイクである。
「こんな形になっちゃったけど、お別れの一言ぐらいは平気っしょ?」
 余計な感情をそぎ落とした仕事人の顔で尋ねられ、ネギは静かに頷いた。
 教室でもそうであったが、事情を知らぬ者には今回の事は本当に寝耳に水である。
 楽しい麻帆良祭が過ぎてみればクラスメイトが何人も転校し、担任まで退職。
 理由の説明は何一つなく、クラス解散の危機にさえあってしまった。
 勝手な決闘で怪我を負い介護が必要となったムドでも、魔力を永久封印され追放されたネギでもなく。
 何も知らされず、周りが一変した三−Aが一番の被害者かもしれない。
 もちろん、魔法と言う事情を知る面々は、全く別問題だが。
「一身上の都合により、突如退職となって申し訳ありませんでした。僕は麻帆良を離れ、別の地へと移ります。ですが、ここで皆さんと過ごした日々は忘れません」
 直接別れを言えない三−Aの人達一人ずつに、ネギは言葉を残していく。
 部活に勉強、遊びにそれぞれ頑張ってくれと。
 一人また一人とレコーダーに言葉を残すに連れて、ネギの瞳からぽろりと涙が零れた。
 ネギにとって修行でしかなかったが、先生業を途中で止める事だけが唯一の心残りであった。
 ほんの少し小さな後悔が生まれての、大粒の涙であった。
「ほら、ネギ。男の子が直ぐに泣いちゃ駄目よ。お姉ちゃんはもう、貴方の面倒は見てあげられないの。愛するのはムドを中心とした家族だけ。だからちゃんと歯を磨いて、風邪引かないように布団を被って寝るのよ?」
「別れの最後の顔が泣き顔って、本当に何処までも泣き虫ね。精々、私達に迷惑かけない程度に元気に京都だろうが、何処だろうが生きなさい」
 ハンカチを取り出そうとした木乃香を制して、ネカネが代わりにネギの涙をふき取った。
 言葉通り、もうこれで最後だと念入りに。
 鳴らした鼻もかんでやり、涙の後が少し残ってしまった頬に口付けた。
 続いてアーニャは、口付けなんかしてやるかとばかりに、ネギの鼻っ面を指で弾く。
「木乃香ちゃん、ネギの事をお願いね。楓ちゃんと、古ちゃんも」
「はい、今日からウチがネギ君の面倒を見るえ。一生でもええと思ってますえ」
「護衛含め、承ったでござる」
「私も、ネギ坊主は将来の婿候補アル。面倒ぐらいは、自分で見るアル……実家が今回の事を知ってどう出るかが不安アルが、まあなんとかするアル」
 ネギの次に、ネカネは三人にも抱擁とキスを与えてお願いと一言ずつ囁いた。
 そうこうしているうちに、空気をよまずに電車がやってきてしまった。
 ここまでは監視の魔法先生も見逃してくれていたが、本当にここまでである。
「楓ちゃんとくーふぇも元気でね」
「手紙程度なら見逃されると思います。お待ちしています」
「木乃香さん、ネギ先生の事を本当によろしくお願いします」
「夏休みにでも入れば、また会いにいくです。その時までに、少しでも互いが成長している事を願うです」
 明日菜に刹那、あやかや夕映。
 他にも皆の言葉を背に受けながら、ネギ達は改札をくぐり電車の中へと向かった。
 改札の正面からでも見える位置に電車内で位置取り、最後まで手を振る。
 出発のベルが鳴り、電車が走り出してもだ。
 しかし無情にも電車は明日菜達を彼方に置き去りにして離れていく。
 やがてその姿すらはっきり見えなくなる頃、ぽたりと膝の上に涙が零れた。
 木乃香が古が、さらには楓までも少し糸目の瞳に大粒の涙を浮かべている。
「あれ、おかしいな。ちゃんと明日菜とせっちゃんいも、お別れできたのに」
「本当に、変アルな」
「誰にだって、心残りと言うものはあるでござるよ。おかしな事ではござらん」
「あ、あれ……」
 ネカネに拭って貰った涙がネギまでも再発した時、窓の外にとあるものを見つけた。
 電車が向かう先、線路に平行して立つビルの屋上。
 そこでは見送りはおろか、ネギ達が麻帆良を去る事すら知らないはずの裕奈達がいた。
 声は殆ど届いては居ないが、必死にネギ達に向けて手を振り叫んでいる。
 慌てて窓を開けるも、吹き込む風でやはり声が届く事はなかった。
 だが必死に声を上げて手を振る三−Aのクラスメイトの気持ちは十分に届いている。
 瞬く間に過ぎ去る彼女らがいる屋上の扉の向こうに、ふと誰かの影が見えた気がした。
「そう、これで本当に最後の最後」
 それが誰か見えたわけではなかったが、ネギの想像した通りでまず間違いない。
 互いに姿が見えないながらも、はっきりと繋がる糸のような物を感じられたのだ。
 だからネギは、その糸を引きちぎるように腕を振るった。
「さよなら」
 母親のお腹の中からずっと一緒であったもう一人の自分へと向けて、決別の言葉をネギは放っていた。
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第六十六話 状況はより過酷な現実へ

 ムド以外、誰も他に居ないかのように見つめていたネギが、ふいに空を指差した。
 つられて幾人かが空を見上げるも、発光する世界樹と夜空以外には何も見えない。
 その先に一体何があるというのか。
 ネギはその遥か頭上より、杖に乗って現れた。
 となればその指が示す先に何があるかは深く考えるまでもなく見えてくる。
「ここから頭上四千メートルの位置に超さんはいる。止めたければ、行けば良いよ」
「さすがに超さんの計画は止めたいですか?」
「別に、ムドの気が散って全力を出せないと困るから」
 本気で超の計画が成功しようがしまいが、構わないような口ぶりであった。
 今のネギには嘘偽りなく、本当にムドの事しか頭にないようだ。
「フェイト君、調さん達を連れて超さんのところへ行って下さい」
「悪いね、ムド君。そうさせて貰うよ。君の勇姿が見れないのは残念だけど」
「勇姿と言えるかどうか……アキラ、それに月詠。金剛手甲と次元刀を、栞さん達に貸してあげてください」
 ネギはムドがフェイトを行かせようとする間も、身動き一つ取らなかった。
 強いてあげれば瞬き程度、ムドの準備が整うのをただまっていた。
「結構力使うから気をつけて」
「ん、借りとく。サンキュ」
「栞はんは真っ先にやられそうですから、失くさんといてな」
「酷い、私は確かに非戦闘員ですけど」
 アキラが金剛手甲を焔に、月詠が次元刀を栞に手渡した。
「じゃあ、行こうか。健闘を祈るよ、ムド君。それにネギ君もね」
 フェイトが軽く地を蹴ると、その体がふわりと浮き上がり空へと上っていく。
 続いて調が背中から木の翼を生やし、環が竜化、焔が炎精霊化して空へと上がる。
 獣化しても翼がない暦や非戦闘員の栞はそれぞれ調と環の背に掴まり飛んでいった。
 世界を変えようとする者を、このままで留めようとする者達が止めに。
 まさに天下分け目の戦いである。
 文字通り力なき民草は、天上人の考えを理解もできず見送る事しかできない。
 天上人は言うまでもなく超や、フェイト達。
 民草はこの戦いの裏の意味を知らず、ゲームと思い込んでいる裕奈達麻帆良学生。
「さあ、生き残っていたヒーローユニット。謎の少年と少女達が、ラスボス超鈴音の待つ麻帆良学園上空四千メートルへと向かいます」
「ていうか、本当にあの子達誰!? 中等部にあんな子達いたっけ!?」
「ねえねえ、あの眼鏡の男の子。ちょっと可愛くない?」
「美砂、あんた彼氏……」
 裕奈のみならず、美砂もあの子はと色めき立ち円に突っ込まれていた。
 他の麻帆良学生達も、アレは誰だという視線を向けて空を見上げ騒いでいる。
 あれだけいたロボ田中も、千雨がプログラムし直した鬼神が掃討を続けていた。
 はっきりと言って、最後の砦であった世界樹前広場も今や安全地帯に等しかった。
 地上に残ったネギやムドには、殆ど誰も注意を払ってはいない。
 力がありながらもネギは天上から降りてきた身である。
 そしてムドは最初から天上に上がるだけの力がなかった。
 騒ぐ麻帆良学生達に背を向けて、ムドが尋ねた。
「兄さん、場所は?」 
「変えよう、ここは賑やか過ぎるから」
 ネギが杖を手にして、跳んだ。
 一度二度と建物の屋根伝いに跳んで、振り返る。
「正直、意味わかんないけど。やるからには、負けるんじゃないわよ。掴まりなさい、連れてってあげるから」
「では遠慮なく、お願いします。少しでも体力は温存したいです」
 明日菜に抱きかかえられ、ネギを追う。
 と言っても、それ程まで離れた場所に移動したわけではなかった。
 より世界樹に近い、とある場所。
 先日、フェイトやネギに超が会談を行った建物の屋上である。
 世界樹の大発光によりそこは昼間のように明るく、麻帆良学生の声は少し遠い。
 どちらが勝っても何も変わらない、ただの兄弟喧嘩をするにはおあつらえ向きの場所であった。
「ほら、頑張って」
 ネギに数歩遅れそこへ辿り着き、明日菜の腕の中から降ろされ背中を押される。
「ムド、今はお姉ちゃんじゃなくて貴方の従者。勝ちなさい」
「馬鹿ネギなんて張り倒しちゃいなさい」
 ネカネにアーニャ達が次々に応援の言葉を投げかけてくれる。
 だがそれは本心からではなく、大部分は不安な心からであった。
 ムドは元々、前に出て戦うような、そもそも戦って良い人間ではない。
 ネギが望み、ムドが了承したからといって快く送り出せるはずもなかった。
 ただ惚れた男が望むならと、その無事だけを願って必死に耐え忍んでの言葉だ。
「ネギ坊主……なにも言えないアル。瞳すら、合わせてはくれないアル」
「ネギ君、頑張れ」
 それでも古や木乃香よりは、マシだったろうか。
 二人は惚れた男に捨てられ、今はそばにいるのにその眼中にすらなかった。
 木乃香の小さな呟きも、虚しく夜風と世界樹の大発光の中に消えるのみ。
「始めようか」
「そうだね、上でも始まったみたいだ」
 自分へと振り返って言ったネギへと、ムドが少し頭上を見上げて呟いく。
 それだけでぐらりと揺らぐ視界の中で、大きな炎が巻き上がるのが見えた。
 詳細は不明だが、天上人の戦いが始まったようだ。
 あれだけ遠くに聞こえていた麻帆良学生達の歓声が大きく、こちらまで響いてきた。
 多くの羨望が集まるその戦いの影で、極々少数の人に見つめられながら二人が身構える。
 ネギは古より習った中国拳法の構えを。
 ムドはエヴァンジェリンより習った合気道で構えた。
 武術の違いはあれど、お互いに錬度はそこまで大きくの開きはない。
 始めた時期はネギが先とはいえ、一ヵ月の違いがあるかどうか。
「戦いの歌」
 最大の違いはそこ、魔法が使えるかどうかであった。
 ネギは躊躇なく自らの体を強化の魔力で覆っていた。
「あんたムド相手に魔法を使うの!?」
 アーニャが叫ぶが、ネギの気を引く事はできなかった。
 ネギが強化された拳を握り締め見せ付けるように、呟いた。
「やっと戦える。やっと、やっと。この時の為に、夕映さんやハルナさんを未来に置いて来た。間に合ったかもしれないあやかさんを見捨て、仮契約も全て解除した」
 今のネギには、自分以外の何もなかった。
 血肉を分けた双子のムドは敵で、近しい同郷の家族もムドの従者である。
 麻帆良という新しい地で手に入れた絆、従者でさえ捨てた。
 さらには英雄の息子として生まれ、約束された輝かしい未来でさえ。
「ムド、がっかりさせないでね」
「私も少しは強くなりました」
 その言葉に満足したように、似つかわしくない影のある笑みをネギが浮かべた。
 そして床一面に敷き詰められたレンガを踏み壊しながら、ネギが瞬動術に入った。
 レンガの破片や砂煙、巻き上がったその場にはもういない。
 次に踏み砕かれたレンガはムドの直ぐ背後。
 そこでネギは魔力によって強化された拳を振りかぶっていた。
 あまりにも力を込め、握りこんだ手の平の皮が破れ血がにじんでいる。
「う、あぁぁぁっ!」
 暴風を伴ない繰り出される拳に対し、ムドはまだ振り返る気配を見せてはいなかった。
 この程度かと、僅かにネギの気が緩んだ。
 言ったそばから実力差に虚しい風が心に吹き込もうとした時、鼻が僅かに潰れた。
 潰したのは肘、腕を曲げる事でそれなりに鋭利になったそこであった。
 振り返り目で確認する事なく、正確無比にムドは全てを察していた。
 ネギの体さばき、拳の軌道。
 気が付けばムドは拳の軌道から頭をずらし、カウンター気味に後方のネギへと肘を突き出していたのだ。
 半ば自分で自分の顔を殴るようにどかし、突き出された肘を手の平で受け止める。
 飛び散る鼻血を前に瞳を閉じず、ネギは逆の手の平をムドの腹部へと添えようとした。
「魔法の射手、雷の一矢!」
 直撃すれば、魔法障壁が張れないムドは腹を破られ臓物を焼かれる。
 添えられた手の平から逃れようとするも、肘を掴まれ動きを制限された。
「くっ、あぁ!」
 体を捻り直撃こそ避けたが、逃れきれない電流が体を走った。
 心臓が破裂したかと思った程に、大きく跳ねた。
 痙攣後の硬直のみならず、命の危機に瀕して体が使えもしない魔力を増産し始める。
 瞳はその役目を放棄し、視界が真っ白に染まり目の前のネギを見失う。
 脳内ではネギの次の行動を読み取り回避を選ぶも、体がついてこなかった。
「先手は取れなかったけど、これで一発同士」
 まるで無防備な状態のムドを、ネギは流れる鼻血をそのままに思い切り殴りぬけていた。
 頬を打ち貫き、レンガの上をバウンドさせながら吹き飛ばす。
 地の上を転がり体を擦りむきながら勢いを弱めたムドが、やがて止まる。
 誰の背にも走ったのは怖気だ。
 先程のアーニャの台詞もそうだが、誰もネギがここまでするとは思わなかった。
 兄弟喧嘩の延長上、戦えなかった武道会の続き、そんな考えが一気に吹き飛んでいく。
 なにしろ視線の先で倒れるムドが、ぴくりとも動かないのである。
「もうええやん、ネギ先生の勝ちで。そんなんしたらムド君が死んでまう」
「待って、亜子!」
 ムドのもとへと走ろうとした亜子の手を握り、アキラが止めた。
 その直後、止められなければ踏み出していたであろう場所に魔法の射手が突き刺さる。
 ネギが放った光の一矢であった。
 手を出すなという警告の一撃が、容赦なく放たれていた。
「邪魔をしないでください。今しかない、もう今しかないんです」
「兄さん……言いまし、ね。カハッ、私の女……に手を、あぅな」
 ネギの言葉通り、呼吸を乱しぜえぜえと喉を鳴らしながらムドが体を起こした。
 何度もふらつきながら立ち上がり、痰と交じり合った血を吐き出す。
 その中には白い粒のような、砕けた歯も含まれている。
 歯はまだ乳歯なので時と共に生え変わるが、頬の腫れぐらいから頬骨にもダメージがあるかもしれない。
 現状、暴走した魔力による熱で朦朧とし、痛み半減しているがそれでも相当なものであった。
「ねえ、これって何の意味があるの? 武道会の続きじゃない、喧嘩でもない。ネギがムドをなぶりたいだけ!?」
「申し訳ありませんが、私には耐えられそうにありません。それ以上、ムド様を害するのであれば、ネギ先生といえど」
「珍しく、先輩と意見が合致しましたえ。ウチも、許せそうにありませんえ」
「ネギ坊主、私はこんな事をする為に私の武を教えたわけじゃないアル。袂を別ったといえど師弟アル。弟子の不始末は、師がつけるものアル」
 ようやく起き上がったにしろ、立っている事もやっとなムドを見てアーニャが仮契約カードを取り出した。
 刹那や月詠、果ては元ネギの従者であった古でさえ事を構えるつもりである。
「年下だけど、折角手に入れた恋人なのよ。私からムドを取り上げる奴は、ぶっ倒す!」
「ウチも、ムド君を失うなんて絶対に嫌や。もっと一杯幸せにして欲しいから!」
「金剛手甲は焔ちゃんに貸してないけど、素手でもそれなりに戦える!」
 皆がアーティファクトを手に、一歩進み出る。
「待って皆、もう少しムドの好きにさせてあげて」
 そんな誰も彼もがこの暴挙を止めたいと声を上げる中で、両手を広げ立ち塞がる者がいた。
 ムドを傷つけさせない為にネギを倒すという総意に逆行したのは、ネカネであった。
 誰よりも早くからムドの傍で守り続けていたネカネが止めていた。
「これはネギが望んだだけじゃない。ムドもまた望んだ事なのよ?」
「ありがとう、姉さん。私だって好きで痛い思いをしてるわけじゃない。ただ、責任を取る為にこうして無理をして戦っています」
「一体何の責任よ。超ならフェイトが止めようとして、十分手伝ったじゃない」
「今回の騒ぎとは関係ありません。私が、兄さんの人生を弄んだ責任です。私は兄さんを私だけの立派な魔法使いにする為に、色々と手を尽くしてきました」
 やや唐突なムドの告白に、ハッとしたのは古と木乃香であった。
 修行場所の提供から魔法先生や生徒との模擬戦に、エヴァンジェリンとの激突。
 知っているだけでもそれだけあり、大小合わせてムドはかなり動いてきた事だろう。
 最終的に、ネギは父を追う事に決め、その思惑は大きく外れる事となる。
「ですが、袂を分かっても自立し合おうと言っても結局兄さんはこうして私のもとに戻ってきた。まるで私のコレまでの行動に呪われているかのように」
「理由なんてどうでも良い。責任でもなんでも、全力で戦ってくれさえすれば」
「勘違いしないでください兄さん。誰も兄さんの為に責任をと言っているわけではありません」
 ある意味で、告白に対し許しを与えようとしたネギの言葉をムドが切り捨てた。
「あくまで私の目的は、愛する者達と共に幸せになる事。その為に、邪魔なんですよ。兄さんという存在が。これ以上、追い掛け回される事が」
「分かった。これが終わったら、麻帆良学園を去る。もう二度と、ムドの前には現れない」
「そう、当然の事です。自業自得、自分で起こした行動のツケを払う。それが私の責任。そのツケをここで払いきり、私は兄さんとは異なる道を歩みます」
 そこまで言われて、誰がこの個人的で世界的に無意味な戦いを止められるだろうか。
 全てを捨ててこの場を望んだネギの独りよがりではなかった。
 ムドもまたこの場を望み、自分が歪めてしまったネギを受け止めようとしている。
 相変わらず想いは欠片も重なり合わない兄弟だが、戦いを望んでいるのは明らか。
 そして改めて、二人はお互いだけをその瞳の中に映し合う。
「ムド、これ以上体力回復はいらないよね」
「そうですね。これ以上時間を貰っても、視力は回復しそうにありません」
 瞳の焦点がズレ何処を見ているのか分からないムドを前にして、ネギが先に地を蹴った。
 再びの瞬動術、今度現れたのはムドの目と鼻の先である。
 見えているのかいないのか、反応を示さないムドへとネギは下から顎先を狙い拳を放つ。
 その瞬間、ムドが上半身を僅かにそらし手をそえ拳を上空へといなした。
 相変わらず視線は先程までネギがいた場所に注がれている。
「見えて、あっ」
 まるで瞳以外の何かで見ているかのような動きに、ネギが小さく零す。
 いなされた拳を振り上げる腕を、ムドが手首と肘その二点を掴んだ。
 脇には肩をそえて、背負い投げるままに肩と肘、手首を破壊しようとする。
 初手で肘で鼻を突かれた時はまだ障壁のおかげで、鼻は折れず血を流す程度に収まった。
 だが完全に密着されてしまえば、障壁を張って力ずくで防ぐ事はできない。
 そこでネギはあえて自分から地面を蹴って跳び、そこからさらに虚空瞬動。
 ムドの投げ技よりも先んじて、自ら跳んだ。
「くっ」
 今度は逆に、ムドの手首がネギの手により掴まれていた。
 腕が抜ける程に引っ張られ、前のめりにバランスを崩される。
 その時、虚空を蹴ったネギが掴んでいた手首を離し、真上に小さく跳んだ。
 くるりと一回転、その瞳で見下ろしたのはバランスを崩し、自分に背を向けるムドであった。
 その背中を狙い、回転中の体から膝を突き出した。
 膝先が触れる直前、ムドの体もまた回転し始める。
 ネギが縦ならばムドは横に、まるで一枚のパネルを捲ったように膝が避けられた。
「ムドォ!」
 独楽のように回転するムドの体から手が離れ、ネギの首後ろに手刀を叩きこんだ。
 魔力による障壁が破られる事こそなかったが、首後ろを突かれた事実はそこにあった。
 実際のダメージ如何に関わらず、一瞬だけネギの呼吸が止まる。
 先に体勢を立て直した方が明らかに有利な状況で、それはあまりにも大きなハンデ。
「兄さん!」
 もはや焦点が合わないどころか、白く濁った瞳でネギを見つめムドが叫ぶ。
 おぼつかない足取りで地面を踏みしめ、今まさに地面に足を着こうかというネギに掌を打ち込んだ。
 咄嗟に身を捻ったネギのおかげで、胸ではなく肩を。
 だがまだムドの猛攻はここからである。
 よろめくネギのローブを掴み取り引き寄せ、密着した状態から頭突き。
 コレにはお互いうめき声を上げたが、事前に覚悟しただけあってムドは止まらない。
 ネギの足を払い、大きくその体を振り回してレンガが敷き詰められた地面の上に叩き落した。
「ぐぁっ!」
 今度は地面の上でネギが体を弾ませ、悲鳴をあげた。
 魔法障壁に体は守られていても、心まではそうはいかない。
 あくまでムドは身体強化なし、さらには鍛え上げられた肉体というわけでもないのだ。
 体へのダメージは蚊に刺された程度である。
 ネギがよりダメージを受けたのは、心の方であった。
「なんで、僕の方が強いんだ。僕の方がお兄ちゃんで、守る側なんだ。ムドに負けるわけ……」
 何故自分が倒れていると、この世の不思議を見たようにネギが呟いた。
 余りにも不可解、いやある程度想像はしていたが実際起きてみると尚更であった。
 これでもしあの時ヘルマンが言ったように、ムドが健常者であったなら。
 一体自分はどうなっていたのかと思い至り、慌ててその想像を振り払う。
 だが、ムドも万全無事にというわけでもなかった。
「ッ、はぁはぁ……げほっ、うぇ」
 試合ではなく、どちらかというと死合に近いこの状況で神経をすり減らしていた。
 最初の一撃はまだしも、ネギの本気の一撃を受ければ死ぬ。
 死なないにしても重傷は確実で、白く濁った瞳を持つ顔を焦燥感にこけさせている。
「そうだ、負けるはずがない。僕は戦う為だけにじゃなく、ムドを倒す為に戻ってきたんだ」
「かはっ……本当に、迷惑です。象が蟻に勝って勝ち誇ろうなど、愚かの極みです」
「自分を蟻だなんて思ってるのは、ムドだけだ。弱いだけの蟻に、従者はこうも集まらない。それが何かは分からないけど、僕はそれごと打ち勝ちたい」
「兄さんこそ、自分が象である自覚を持ってください。自分の才能に気付かず、伸ばす事もしないで怠けてばかり。挙句の果てに、弱い者虐めを正当化ですか。反吐が出ます」
 双子の兄弟でありながら、かつてここまでお互いの心の内をさらけ出した事もないだろう。
 口にした言葉が本心だからこそ、腹が立ち怒りが湧き上がる。
 一体その目で何を見ているのか、理解と言う言葉は遠く募るのは苛立ちばかり。
 双子であるが故の近親憎悪でもあった。
「それに、気付いてますか? 今の兄さんは魔法学校で私を苛めていた人達と同じです。自分が強いと錯覚したい、だから弱者を求める。私のような」
「違う、ムドは自分を弱者と周りに錯覚させて、騙してるだけだ!」
 跳ね起きたネギが、弾劾するムドを殴りぬける。
 魔力の篭らない拳でだが、それでも十分にムドを吹き飛ばし尻餅をつかせた。
「ずっと騙されてきた僕だから分かる。ムドは何時だって、自分でなんとかできたはずなんだ。それを何時も遠まわしに僕を前面に押し出して、僕は僕だ。君の操り人形じゃない!」
「何を言うかと思えば、私は兄さんの望みを叶えただけだ。誰よりも先で、誰よりも強い力を振るう誤った立派な魔法使い。けど切れたはずの操り糸を手繰り寄せ、戻ってきたのは兄さんだろ!」
「確かに僕は立派な魔法使いになりたかった。だけど、ムドにそうしてくれって頼んだ覚えはない。そうだよ。操り主が糸を切っても意味がない、僕が僕の意志でこの糸を断ち切るんだ!」
 尻餅を付いていたムドが立ち上がり吼える。
 だがネギも撒けずに吼え返し、今再び拳を握り締めて身構えた。
「ネギ先生!」
 その時、とある一人の少女の声が二人の間に割り込んできた。
 もしもこれがアーニャ達や古、木乃香ならば止める事はできなかった事だろう。
 だがこの時、少なくともネギは我が耳を疑い声がする方に振り返っていた。
 そこにいたのは、気絶したハルナを支え、ひきずりながら歩いてくる夕映であった。
 一週間後に置いてきたはずの、ネギが投げ捨ててきたはずの従者。
「夕映さん、どうやって……」
「あの後、唐突に私とハルナの仮契約カードが消えて……居ても立ってもいられず、それでも何もできず。神頼みに向かった龍宮神社でコレを見つけました」
 ハルナを支えたまま苦労して夕映が見せたのは、カシオペアであった。
 それは恐らく、武道会直後に超に渡されムドが捨てたアレであろう。
 気絶したハルナや、夕映も疲労困憊な様子から随分と無茶な賭けではあったようだが。
「ネギ先生、やはり貴方は間違っています。ですが、既に間違った事をとやかく言っても詮無い事。いっそ、気の済むまで間違えてください。そして、皆で償いましょう」
「夕映、そうやな。今度は自分の意志で、ウチもネギ君の従者になるえ」
「気持ちはきっと楓も同じアル。ネギ坊主、私はまだまだ諦めないアル!」
 それらの言葉を受けても、ネギは何も応えずにふいっと顔をそらしていた。
 だがやや俯かせた顔に僅かに笑みを浮かべていたのをムドは見逃さなかった。
「ラス・テル、マ・スキル、マギステル!」
 声を張って始動キーを口にし、ネギが握りこんだ拳に魔力の光を集め始める。
 許容量を超えて魔法の射手、光の矢を腕に装填し続け肉と皮を裂いて血が噴き出す。
「ムドこれが最後の勝負だ」
「分かりました。本当にこれで最後です」
 その場から姿を消してムドとの距離を詰めるも、光を内包した右の拳は使わない。
 確実に叩き込む為に、ムドの正面に現れては左手による軽いジャブ、
 ムドも多少のダメージは覚悟で、左手で無造作にそれを払った。
 ゴキンと骨が折れたかひびがはいったような音が鳴るも、二人は瞬き一つしない。
 ネギが見つめるのはムドが生み出すであろう隙だけ。
 ムドが見つめるのはネギが繰り出すであろう拳だけ。
「ムドォァッ!」
「ネギィァッ!」
 障壁を無視する為に、あえてムドが一歩を踏み出して体を密着させる。
 肩からぶつかるようにして、ネギの右の拳にだけは注意を払いながら。
 そして次には、驚くべき事に明らかに異常な動きを見せる折れたであろう左腕を鞭のようにしならせ振る。
 激痛はもう脳で処理しきれず、何も感じられない。
 ただ目的の為に、怪我の状態を無視して振るった。
 折れた腕での無意味にも見える攻撃に、明らかにネギが目を剥いていた。
 そこに深い意味があるのか、それともこれこそが致命的な隙なのか。
 ダメージを与える事をなどはとても見込めない、逆に自分がダメージを受けそうな左腕をだ。
 その腕がネギの目と鼻の先まで来た時、決断する。
 ネギもまたそんな腕を無視し、好きに頭を打たせ、瞳だけはムドを見つめる事に。
 ムドが明らかに歯軋りする素振りが露となった。
 せめて避ける素振りでもしてくれればと、ムドの誤算が生まれたのは明らか。
 真っ向から左腕にぶつかられ、走る痛みに体が痙攣を起こしたのだ。
「うグッ」
 慌てて最後に取っておいた右の掌を打ち込むも、ネギは既に懐の中であった。
 ムドとは違い、無造作に伸ばされた頭髪を僅かながらに散らす程度。
 小さなミス、穴で全てが瓦解する。
「桜華崩拳!」
 光を纏ったネギの拳が、ムドの胸の真ん中に撃ち込まれる。
 速さはさほどでもなく殆ど、胸に拳を置かれたようにも見えた。
 だが胸の上に置かれた直後、その腕に装填されていた魔法の光が炸裂する。
 周囲一帯を震わせるような震動が、ムドの胸を中心に響き渡った。
 純粋な破壊の魔力。
 ムドの生命活動が一瞬、全て停止していた。
 そして次の瞬間、血の華を咲かせる様に体の穴という穴から血を噴き出してムドが倒れこんだ。
「勝った……」
 血まみれで地面に沈むムドを前に、そうネギが呟いた。
 自身もまた返り血で体を赤く染めながら、感慨深げにだ。
 震える拳を握り、空に掲げてネギは叫ぶ。
「勝った、ムドに勝った。あ゛ぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 もはや想像を遥かに越えた凄惨な結果を前に、声を上げるのはネギのみであった。
 そして同時刻、天上での結果も出たようで世界樹の上には煌びやかな花火が打ち上げられ始めていた。
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第六十五話 遅れてきたヒーローユニット

 麻帆良学園都市のはるか頭上、赤焼けの空の中にエヴァンジェリンはいた。
 浮かべた箒に座って、細い柄の上で器用に胡坐をかいている。
 頬にさした赤みは太陽のせいばかりでなく、ちびちびと口をつける酒のせいでもあった。
 一人悠々と空から傍観を決め込み、魔力溜まりが鬼神に落ち行く様を眺めていた。
 龍宮神社の正門前、そこにたどり着いた鬼神が歓喜のような声を上げる。
 その遠吠えは占領完了を意味し、魔力溜まりの一つが陥落した事を示していた。
「ようやく一つか、意外に粘る。もはや魔法先生の八割方が倒されたというのに」
「服ガ脱ゲルバカリデ、詰マンネーナ。オイ、御主人。一匹グライ、鬼神ヲ斬ッテモイーカ?」
「そいつは、ワシからもお願いしたいのぉ」
 ふいに訪れたその声の主は、近右衛門であった。
 何時も通り長い髭や眉で表情、そこから見える本心を隠しながら笑っていた。
「来たか、爺。ムドの従者の中でも私は最強だからな。ぷらぷらしていれば、そっちから来ると思っていた」
「ふぉふぉふぉ、お主が手を出さなければワシも出さんわい。お互い、自分が見初めたスプリングフィールドを見守ろうではないか」
「良く言う。自分が利用できそうなスプリングフィールドの間違いだろう?」
「何の事やら。わしは孫の恋心を想って手を貸したまでよ。どっこいしょ、失礼するぞい」
 箒もなしに空に腰掛け、暢気に持参の杯に酒を注いだ。
「その様子だと、貴様も手を出す気はないようだな」
「既に出すべき指示は出してある。止めるのは若い者の役目。止められんかった時の責任はとる」
「お前が口にする責任という言葉ほど、軽いものを私は知らんな」
 厚顔無恥もココまで来ると潔さすら感じると、エヴァンジェリンは再びお猪口を仰いだ。
 何しろ近右衛門は一度ムドを殺しかけた時にも、しらばっくれた。
 未来から戻ったネギがこの作戦を持ち出さなければ、高畑に押し付けた可能性もあった。
 今回エヴァンジェリンが請け負った任も、近右衛門の監視である。
 先程の責任を取るという言葉も、ちゃんと記録した。
 エヴァンジェリンが録音機のボタンを押し間違えたり、すっとこどっこいな事をしていなければ。
 一応、そんな時の為に、和美の渡鴉の人見の貴重な一機を回してもいたが。
「フハハハハ、苦戦しているようネ。魔法使いの諸君」
 冷や汗ドキドキのエヴァンジェリンを驚かせる、大きな声が麻帆良学園に響き渡った。
 さらには武道会でも見せた投影スクリーンを用いて超鈴音本人も登場である。
 自分が全魔法関係者から狙われているのに豪胆な事だ。
 その自信は何処から来るのか、その瞳には揺るぎない意志が垣間見えた。
「私がこの火星ロボ軍団の首領にして悪のラスボス、超鈴音ネ」
「大胆不敵とはまさにこの事だな」
「イイゾ、モットヤレ」
「ううむ、ワシも少しばかりまだ侮っていたようじゃのう」
 まだ暢気な傍観者を決め込む二人と一体。
 だがそれも、超が次に彼を紹介するまでであった。
「そしてこちらが悪のラスボスに膝を屈した元ヒーローユニット。今やダークヒーローユニットと化した魔法拳士ネギ・スプリングフィールドネ」
「ぶふぉっ、えほ。な、なに!?」
「い、いかん。入ってはいかんところに酒が!」
 投影された超の横にネギが現れた事で、二人共に飲んでいた酒を噴き出していた。
 余りにも唐突、さすがのエヴァンジェリンもこれは予想外であった。
 一番都合の良い予定では、あのネギが超を倒す予定だったはず。
 それが何をどうしたら、ネギが超の軍門にくだるような事態になってしまうのか。
「おい、爺。責任とれよ」
「ふぉっ!?」
 早速逃げようとした近右衛門の首に、茶々ゼロが肉切り包丁を、エヴァが断罪の剣をかけた。
 冷や汗をだらだら流し、持ってきた酒を捧げるも取り上げられるのみ。
 そんな近右衛門は放置して、改めてエヴァンジェリンは投影されたネギの顔を眺めた。
 脅しを受けた様子もなければ、激しい傷を負った様子もない。
 むしろ覇気は普段以上に現われ、望んでその場に立ったようにも見える。
「ここへ来て、坊やもようやく一皮向けたか」
 どうするとエヴァンジェリンは念話も届かない為、心の中でだけでムドに尋ねた。









 投影された超の映像を、ムド達もホテルの一室から確認していた。
 ムドやフェイトは千雨のノートパソコンから、和美が送り込む映像にて。
 滞在数が多い為、液晶画面が見えない者は窓のカーテンを開けて直接にであった。
 何度目を凝らしても、ラスボス宣言をした超の隣にはネギがいた。
 強制転移弾を工学部の新技術として説明するのを、黙して聞いている。
「ちなみに君達の頼みの綱のヒーローユニットは、既に私の部下がほぼ始末した。そして彼らの希望の種であるネギ・スプリングフィールドも私の手中ネ」
 そう超が宣言した時、部屋の扉がけたたましく開け放たれた。
 刹那や月詠、調達が咄嗟に身構える中で、駆け込んで来たのは楓達。
 今や超の右腕のようにたたずむネギの従者達であった。
「ちょっと、アレどういう事よ。くーふぇ、なんでネギ先生があそこにいるわけ!?」
「私も何がなんだか分からないアル。あの後で、いいんちょがやられて。そしたらネギ坊主が皆の仮契約を解除して一人……私達、全員振られたアル」
 そう明日菜に必死に答え呟いた古が、ポロリと大粒の涙を零した。
 自分自身でも驚いたのか慌てて拭ったが、どうにも止まらず流れ落ち続ける。
 まさかあの古が人前でと、逆に明日菜が取り乱し、思わず抱きしめてしまった。
 必死に慰めようとするも、直ぐに新しい恋人が等と自分に照らし合わせた言葉しか思いつかない。
「せっちゃん、明日菜……ウチのせいや。ウチがたきつけたから、ネギ君行ってもうた」
「お嬢様、それに古と楓も。ムド様、よろしいですか?」
 ノートパソコンの画面に釘付けであったムドから返答はなく、拒否がないならと刹那が中へ通した。
 ただでさえ手狭な中で三人を、部屋の中へと通す。
 あの古でさえ涙を零す中で、木乃香が耐えられるはずもなくしゃくり上げている。
 唯一の例外は楓であろうか。
 何時も通り瞳に加え、今は口元も真一文字に結んでいた。
「ネギ坊主は、ムド先生と戦う為だけに超についたでござる」
 そう呟いた楓の声は、少し震えていた。
「三−Aの担任である事も、拙者ら従者さえ捨てた。恐らくは、立派な魔法使いの夢や父上殿を追う目標でさえ今のネギ坊主は捨て去った」
 この最終日イベントの裏にある戦いの意味を知る者からすれば、ネギは真に裏切り者だ。
 しかも超がそう宣言したのに、傍らにいるはずのネギは否定一つしない。
 超は魔法先生や生徒をほぼ始末したといったが、全てとは言わなかった。
 ムド達の他にも数名の生き残りがいるとして、夜空に投影された姿を見ているだろう。
 もし仮にここでムドがフェイトと共に超を捕縛しても、報告はあがる。
 それが分からないネギではないはずだ。
 楓の言う通り、ムドの為にネギは全てを投げ打っていた。
「止めようと思えば止められたでござる。だが、仮契約を破棄されて心が乱れ、一歩も動けなかった。夕映殿に合わせる顔がないでござる」
 いざとなれば楓は、ネギを倒してでも止める腹積もりで過去に来た。
 その為に主であるネギを裏切るように、ムド達に未来からの帰還さえ告げたのだ。
 だが結局はこのざまで、ネギをむざむざと行かせてしまった。
「ふふふ」
 そんな楓の告白を前に、不謹慎にもムドは笑っていた。
「あーっはっはっは。そう、そうなんですか。兄さんが捨てた。私の為に、夢や立場、それこそ愛すべき従者まで!」
 嘲りは微塵もない、腹の底から愉快そうにムドは笑っていた。
 腹の中は兎も角、普段は大人しいムドがこうも笑い声を上げる様は異様でもあった。
 お腹を押さえ、興奮しすぎて熱が上がり、時折編に声を途切らせながらまだ笑う。
 その様子にフェイトの従者である栞達は引きまくっていた。
 アーニャ達もそんなムドの笑いが理解できず、この場でできていたのはネカネぐらいだろうか。
 従者に隠し事をしないと決めたムドも、過去に頓挫した計画まで放す程は暇ではなかった。
「妙な形で、念願が叶っちゃったわね。魔法学校での五年間も無駄じゃなかったかしら?」
「ええ、姉さん。あの姿こそ、私が求めた兄さんです。私の為ならば、世界でさえも切り捨てる立派な魔法使い。行動の善悪はこの際関係ない!」
 ムドを守るか求めるか、ささいな違いこそあれそれは間違いなかった。
 五年もの歳月を陰湿な苛めに耐えてまで、ネギの心に打ち込もうとした楔。
 不完全な形で打ち込まれ、やがて歳月と共にそれは抜け落ちたかに見えた。
 だが今こうして、その楔は異なる形でムドの意を再現しようとしている。
「お楽しみのところ申し訳ないけど、どうするんだい? もう僕らが直接出るしかないよ」
「はぁ……ひぃ、げほっ」
 ムドの狂乱にありがたくも引かなかったフェイトに待ってと手を挙げる。
 本気で酸欠に陥る程に、ムドは笑いすぎていたのだ。
 腹を押さえ、呼吸と心を整え、できるだけ冷静さを取り戻そうとした。
 そこへ聞こえたのは、これまでずっと黙して語らなかったネギの声であった。
「さあ、君達の力で我が火星ロボ軍団の進攻を止める事ができるカナ?」
「あるいは進攻されるより早く、悪のラスボスである超さんを捕らえるか。最も、超さんを捕らえるためには僕を倒さなければなりません」
 超のように遊び心が入ったいかにもゲームらしい言葉使いではなかった。
 ただ己の望みだけを淡々と呟くような、とても静かで穏やかな声である。
 誰を待ち望んでいるかは、この場にいる誰もが理解していた。
 皆から一身に視線を集めたムドは、整え終えた息を吸い、落ち着き払って言った。
「最優先すべきは、超さんのもとへとフェイト君を導く事です」
 やはり当然かと楓が唇をさらにきつく締めていた。
「ムド、それであんたは良いの? 武道会で、本当はムドも戦いたかったんでしょ?」
「ウチは、戦ってもええと思うよ。ムド君が戦いたいなら」
「魔法先生も倒されてるなら、後は誰も文句言えないよ」
 アーニャや亜子、アキラに諭されても、ムドは静かに首を横に振った。
 ネギが自分だけを見てくれた事は、遅すぎたとはいえ嬉しくも感じる。
 ただし、時と場合が限りなく悪い。
 背水の陣を敷いたネギに付き合う義理は、ムドにはなかった。
 それに魔法が世に明かされ世界が変わるだけに留まらず、フェイトの計画にも支障が出てしまうからだ。
 確かに今のネギはムドが求めたものであったが、既に捨て去った計画の話だ。
 今のムドにとってネギの優先度は、友達であるフェイトよりも低い。
「兄さんに付き合って、世界を巻き込む必要はありません。計画通り、鬼神を一体奪取。魔力溜まりから引き剥がし、超さんを引きずり出します。ただ少し、計画に修正を加えます」
 だがこの程度のわがままなら、多少は許されるというものだろう。
「鬼神を奪取した場合、超さんもコレを取り返そうとするでしょう。差し向けられる戦力で危険なのは真名さん、そして兄さん。兄さんの相手は、私がします」
「ムド先生、拙者に真名を。押さえる役目を負わせてはくださらんか? 真名は仕事人でござる。ネギ坊主の意志に関わらず、拙者らを撃つ可能性もあるでござる」
「良いでしょう。それと千雨」
「え、私? おいおい、私の役目は学園結界を落とすので終わりのはずだろ!?」
 さすがにドンパチの真っ只中はと、千雨が嫌そうに叫んだ。
「鬼神の制御をお願いしたいんです。奪い取った後、誰かが制御を引き継いでくれないと私が動けません。アレは機械制御されているようですし……お願いできませんか?」
「できなくはねえと思うけど……アレがスタンドアロンタイプだと、直に接触しなきゃならねえ。言っとくが、鬼神は私のトラウマだぞ。それでもか?」
「それでも、お願いします。後で幾らでも傍で慰めますから」
「たく、コレっきりだぞ。後、私の護衛は万全にしろ。それが条件だ」
 下げた頭の上に、拳が結構な力で振り下ろされる。
 世界樹が発散する魔力の中で熱が上がる中、かなり効いた。
 だが千雨に無理を言った以上、それぐらいは甘んじて受けなければならなかった。
「本来は待機予定の者も出ます。鬼神を奪った後にフェイト君は暦さん達を連れて超さんのところへ向かってください」
「暦君や環君なしで、強制転移弾を防げるかい?」
「あくまで目的は、超さんを捕らえること。君を送り出せさえすれば、私の役目は終わります。大丈夫、私はともかく私の従者はやわじゃありません」
 案ずるフェイトへと、ムドは自分ではなく自分の従者を信じてそう呟いていた。









 大発光を行う世界樹を中心にして、五つの光の柱が空を貫いていた。
 その空へと響く遠吠えも五つ、麻帆良学生の抵抗を退け魔力黙りへと到着した鬼神の者である。
「ま、まずい。これは非常にまずい、最悪の状況です。ここ世界樹前広場を除く、五つの防衛ポイントが敵に占拠されたとの報告が入ってきました!」
 三角帽子にマントと、魔法使いルックの和美がマイクを片手に叫んでいた。
「残るこの広場を占拠されてしまえば全て終わり。我々の負け、ジ・エンドです!」
 必死に状況を説明する和美の言葉とは裏腹に、世界樹前広場に限定すれば状況はそう悪いものではなかった。
 世界樹前広場では、まだまだ多くの麻帆良学生が残存していたのだ。
 それだけに留まらず、スタンドアロンタイプの田中を全て掃討した後である。
 その理由としては、ランキング上位ランカーが多かった事が上げられるだろう。
 二丁拳銃の裕奈に、魔法具の扱いに慣れているまき絵。
 他に武道会出場者の豪徳寺や山下等、一般人の中でもそれなりにできる者が多い。
「このまま我らが学園防衛魔法騎士団は、火星ロボ軍団の軍門に下ってしまうのでしょうか。やはり新ルールは少し厳しかったか。学祭最終イベントは勝者なしのしょんぼりな結果に終わってしまうのか」
「へっ、なに言ってんの朝倉。ここのロボットは粗方制圧したっての」
「えへへ、結構戦うのって面白いかも。ゲームだって分かってるからだけど」
 倒れた田中の背中を踏みつけ裕奈が煽り、まき絵もぴょこぴょこ跳ねながら笑う。
 そんな二人に触発されて、周りの士気も駄々上がりである。
「ゆーなー!」
「来た来た、来たよ」
「でかいの来た!」
 そこへ図書館島の湖近くにいた美砂、円、桜子が叫びながら走ってくる。
 世界樹前広場正面の大通りを、大勢の生き残りを引き連れるように一番前をだ。
 さらに後方からは、最後の一体となる鬼神が街を破壊しながら歩いてきていた。
 鬼神の目的が何か、今さら考えるまでもない。
 裕奈達の取った行動は、即時迎撃であった。
 生き残りの麻帆良学生全員による一斉射撃、放たれた光の弾丸が鬼神を爆煙の中に隠す。
 だがその爆煙の中から少し速度を遅めた程度で、五体満足な鬼神が現れた。
 何度撃たれても、表面上に纏う鎧が汚れるだけでダメージが見受けられない。
「駄目だ、止まらねえ」
「何発当てれば倒れるんだよ。絶対、ゲームバランス悪いって」
 ついには高かった士気の中で、幾人かから弱音さえ出始めてしまった。
 生き残りが集まる最終防衛ライン、その目と鼻の先まで鬼神は迫っている。
 世界樹前広場は少し高台にある為、鬼神が壁となる縁へと手をかけた。
 そしてただ歩くだけであった鬼神が、開いた口の周りに光を灯らせていった。
「裕奈、脱げビーム来るよ!」
「まず」
 撃つ手を止め、防衛ラインが乱れる中、それは放たれた。
 耳を塞ぎたくなるような不協和音。
 それが音の振動波となって、鬼神の纏っていた鎧の胸部を破砕し塵へと返す。
「狂気の提琴、救憐唱……焔、粉塵爆発」
「わかっている」
 塵と返った鎧の破片が着火、大爆発が鬼神を包み込んだ。
 他の五体の鬼神とは異なりもの悲しい遠吠えと共に、鬼神が炎の中仰向けに倒れこんでいく。
「おい、あんま派手に壊すんじゃねえ。制御機能まで破壊したら、私が操れないだろうが」
「千雨ちゃん、と……誰、本気で!?」
「ヒーローユニットってまだこんなにいたの!?」
 裕奈とまき絵が見上げたのは空。
 実はすぐ傍のホテルにいたので、駆けつけたという程でもないのだが。
 ヒーローユニットらしく、ムド達は空の上から次々に世界樹前広場へと降り立つ。
 そのまま裕奈やまき絵、歓声を上げる麻帆良学生を放置して準備に取り掛かった。
 生贄のムドは、倒れこんだ鬼神を見下ろせる手すり近くにてあぐらをかいて座る。
 召喚主となるフェイトは、京都で千草から習った鬼神召喚を亜流で行い始めた。
「おおっと、世界樹前広場も敵の手に落ちる寸前、これは憎い演出だ。ヒーローユニットの生き残りもまた駆けつけてくれました。正に総力戦といったところです!」
 和美のそんな言葉も他所に、明日菜達ムドの従者と調達フェイトの従者は二人を中心に円陣を組んだ。
 三百六十度、何処から狙撃されても二人を守れるように。
「暦君と環君は、ムド君の指示通りに頼んだよ」
「はい、フェイト様。来たれ、時の回廊」
「お任せを」
 フェイトに言われ、暦が砂時計型のアーティファクトを取り出した。
「アキラと月詠も、指示通りに。真名さんの事ですから、暦さんと環さんを真っ先に狙うはずです。その時は、お願いします」
「分かった。来たれ、金剛手甲」
「アキラはんとは余り絡んでへんけど、良い機会ですえ。来たれ、次元刀」
 それぞれ従者に指示を出した後、フェイトが京都で千草から習った陰陽術を唱えた。
 ムドの体内にて猛威を振るう魔力が、生贄という体裁を経て引っ張り出される。
 世界樹の大発光の魔力を受け、その光は京都の時よりも強い。
 京都でのリョウメンスクナノカミ召喚を彷彿とするような、光の柱が即座に空へと上っていった。
 一体何が始まるのか、真相を知らない裕奈やまき絵、他の麻帆良学生は興味心身である。
 皆が見守る中、それぞれの従者が背を向ける中で、環が真っ先にそれに気づいた。
「来る、世界樹の発光の中。暦」
「時の回廊!」
 砂時計型のアーティファクトが輝き、周囲の特定物の時間を遅らせる。
 遅らせたのは銃弾、超の奥の手の一つである強制転移弾だ。
 それは既に目と鼻の先まで飛来していた。
 環が事前に気付かなければ、折角の作戦も瓦解してしまっていた事だろう。
 銃弾の数は三発、周囲を固める明日菜達の間をぬって、フェイトへ二発、ムドへ一発向かっていた。
「無限抱擁」
 その銃弾の時間を暦が遅らせ、次いで環がその銃弾を別空間へと捨てた。
 無限の広がりを持つ閉鎖結界空間、彼女のアーティファクトの中へだ。
「あ、あぶな。何時の間に、てか龍宮さんって何者なの。今の本当に龍宮さん!?」
「エヴァ殿を抜けば……三−Aの中で最強、かもしれぬでござる」
 明日菜が皆の胸中を代弁し叫び、楓が応える中で強制転移弾は次々に放たれていた。
 だが次々に強制転移弾を放とうと結果は同じであった。
 暦の時の回廊で時間を遅らせられ、環の無限抱擁の世界の中へと捨てられる。
 真名にとって、初手で決められなかった事は痛手である事だろう。
 いかに最強の銃弾でも、天敵というものはいるものだ。
「謙遜するな、楓。雌雄を決した憶えはないぞ」
 次の瞬間、その張本人が楓の呟きに答えていた。
「なっ、転移!? 時の」
「もう遅い」
 唐突に現れた魔法陣、その中から現れた真名が暦と環へと、銃口を押し付けていた。
 零距離射撃、放たれた銃弾が二人を時空球へと包み込んだ。
「一枚八十万、これで百六十万。大赤字だ」
 天敵のみを撃ち貫き、再び真名は転移符を用いて何処か別の場所まで転移していった。
 絶対的手段が防がれても、動揺せずに次の手段を講じた。
 例えそれで赤字になろうと与えられた仕事を全うする。
 真名の仕事人としての徹底振りは見事であったが、ムドは更にその先を読んでいた。
「皆、どいて!」
 人を強制的に三時間後へ転移させる時空球を、アキラがその手で掴んだ。
 時空の歪みそのものをである。
 金剛手甲の能力、あらゆるモノを掴む事ができる能力を利用しての事であった。
 片手ずつ、暦と環を包む時空球を掴んで引きとめ、時空を跳ばされるのを止めた。
 だがそれが並みの力では行かなかった事は、アキラの額を流れる多量の汗が示している。
「月詠、早くしろ。貴様の出番だろう」
「言われなくても、アキラはん少しの辛抱ですえ」
 刹那に急かされ、月詠が次元刀を振るって斬り裂いた次元の隙間へ飛び込んだ。
 次に現れたのは暦を閉じ込める時空球の中であった。
 彼女を抱きかかえ、さらに次元刀を振るって次元の狭間へ逃げ込んでいく。
「駄目、限界……」
 月詠が戻って来て直ぐに、アキラがそう呟いて時空球を手放した。
 息を乱しへたり込んだアキラの目の前で時空球は、その役目を思い出したように取り込んだ空間を三時間後へと送り込んだ。
 慌てて亜子がアキラに駆け寄り、念の為にとネカネも時空球を掴んだ手を看始める。
「申し訳ありません。助かりました。もう一度、時の回廊!」
 月詠に助けられ、即座に周囲に迫る強制転移弾の時間を暦が遅らせた。
 間違いなく舌打ちしたであろう真名が放った強制転移弾を、環が無限抱擁の空間へと送り込む。
 二人が存在する限り、強制転移弾は無敵の武器とはならなかった
 さらに二人を排除しようとしても、アキラと月詠がいる限りは助け出されてしまう。
 天敵は全部で四人、暦と環に加えアキラと月詠である。
 だがいかに真名が強敵であろうと四人を同時に、今度は奇襲以外でとなると不可能だ。
「フェイト、鬼神の再召喚はまだなの? 予想外にアキラが疲労してるわ。次に暦と環が狙われたらまずいかも」
「まだ少しかかる。何しろ陰陽道は不慣れでね」
 アーニャの問いかけに、フェイトは今にも肩を竦めたそうであった。
「心配無用、拙者が真名を押さえ込むでござる。環殿、真名は再び世界樹の発光の影に逃げ込んだで間違いないでござるか?」
「銃弾は全てそこから。多分、同じ場所には逃げ込まないって心理を利用した」
「ムド先生……聞こえているかは分からんでござるが、ネギ坊主の事をよろしく頼むでござる」
 光の柱の中で瞳を閉じ、静かに座るムドへとそう楓が呟いていた。
 そして最後までネギの事を案じながら、楓が地を蹴り飛んだ。
 大発光により枝葉の先まで魔力により光輝く世界樹へと向けて。
 真名も楓が自分をターゲットに選んだのを悟ったか、強制転移弾の矛先がそれた。
 ムド達から、世界樹を目指し移動を始めた楓だけに注がれ始める。
「おお、銃弾が止んだ。なんか知らないけど、ヒーローユニットってやっぱ凄い」
「ところで、さっきから皆なにしてんの? ムド君が光ってるけど。良いの、これ!?」
「実はな、これお遊びやのうて」
「亜子ちゃん、あまり悠長に話してる暇はなさそうよ」
 一応魔法を知る裕奈やまき絵に亜子が説明しようとした時、ネカネが肩に手を置き止めた。
「学園防衛魔法騎士団の諸君、まだ安心するのは早い。ヒーローユニットが駆けつけ、巨大ロボは倒されました。ですが、同じように火星ロボもまたこの場所に集結しつつあります」
 ネカネが亜子を止めた理由、それを和美がマイクで声を拡大して説明する。
 生き残りの麻帆良学生が世界樹前広場に集結したように、残存するロボ田中もまた集まってきていたのだ。
 その中には強制転移弾を撃ち放つガドリングガンを保持する固体さえあった。
 さらには多脚移動砲台と、続々と集まり始めていた。
「さあ、こっからは私達も出番みたいね」
「そのようですが、ロボットと言えど得物は例の銃弾です。油断は禁物ですよ」
「基本、私の時の回廊の効果範囲であれば銃弾の炸裂を遅らせ、環が無限抱擁の世界に捨てます。先程のように零距離射撃だけは防げませんので気をつけてください」
 破魔の剣、大剣バージョンを肩に乗せながら明日菜が待ち焦がれたように呟いた。
 やはり性格的にはただ守られたり、何もできない状況というのは焦れったいらしい。
 そんな明日菜を刹那が宥め、暦も最低限の注意を行った。
「裕奈ちゃんにまき絵ちゃんも手伝って。皆も、あと一踏ん張りよ。頑張りましょうね」
「よおし、ランキング一位目指して。敵を撃て」
「あ、裕奈ずるい。私も負けないよ」
 裕奈やまき絵のみならず、他の麻帆良学生にまで声を掛けてネカネが最終防衛ラインを立て直す。
 前者の二人は兎も角、麻帆良学生の大半の男達はネカネの魅力に流された気配もあったが。
 魔法具による銃弾から、素人の気弾が入り乱れロボ田中の集団に襲いかかる。
 この状況で接近戦をしては背中から撃たれかねない。
 だがそこをあえて飛び込み、接敵する影が明日菜達の背後より頭上を跳び越し駆けて行った。
「え、馬鹿?」
「そうアル。馬鹿イエロー、推参。あた、アタタ!」
 焔の呟きにあえて己を馬鹿だと叫び、ロボ田中を殴り倒していくのは古であった。
 見事に味方に背中を撃たれながらも、手だけは休める事はない。
「ちょっとくーふぇ、さすがの私も戸惑ったのになにしてんのよ!」
「ウジウジするのに飽きたアル。ネギ坊主の為もあるけれど、私は戦う為に戻ってきたアル。だから戦う、それ以外は何もいらない。当分、婿候補はいらないアル!」
 失恋に泣いて笑っての間、僅かに一時間あるかないかというところだ。
 私はもう少し悩んだぞと、怒るべきか褒めるべきか。
 そもそも明日菜は、立ち直って直ぐにムドに処女を捧げてしまったわけだが。
 頭を抱えて尻軽だと今さら自分を見つめなおす明日菜へ、もう一人が語りかけた。
「明日菜、くーふぇだけやないて。ウチも、自分の責任取りに来たえ。最後まで、ネギ君を見なあかん。どんな結果になっても。それがウチの責任や」
「お嬢様、それなら今しばらくは私がお守りいたします」
「大丈夫、ウチも戦うから。少しは強くなったえ?」
 新たに古と木乃香を戦力として加え、ロボ田中や多脚移動砲台の掃討を開始する。
 基本的に強制転移弾は暦と環のコンボで防ぐが、それでも被害は出ていた。
 何しろゴキブリのように何処からともなく、ロボ田中は現れるのである。
 無差別に時の回廊で銃弾の動きを遅らせられても、環の無限抱擁の空間へ捨てる事が間に合わない事もあった。
 こちら側も、素人の麻帆良学生とはいえじりじりと戦力を削られる中で、時は満ちた。
「鬼神、再召喚完了だ」
 フェイトが呟くと、薄っすらと半開きにムドが瞳を開く。
 半覚醒状態のような状態で仰向けに倒れている鬼神を見据え、片腕を持ち上げ手首を上へと持ち上げた。
 するとそれに連動したかのように、倒れていた鬼神が操り人形のように立ち上がった。
 質量を感じさせない不気味な動きと、強敵の復活かと周りがどよめいた。
「皆、心配いらないわ。乗っ取り成功よ」
 事情を知らない他の麻帆良学生達へと向け、ネカネがそう説明した。
 それを示すかのように鬼神がゆっくりと、背を向けるように振り返った。
 鬼神の視線の先にいるのは、まだまだ数を残すロボ田中である。
 一度は不発に終わった極太のビーム砲の光を口元に光らせ、一掃していく。
 圧倒的火力、周囲の建物ごとロボ田中を灰塵に返し、少しばかり周囲の建物も巻き込んだ。
「よし、おい刹那。私を鬼神の頭部に連れてけ」
「はい、わかりました」
 即座に千雨が刹那に頼み、鬼神の頭部へと跳躍して連れて行ってもらう。
 その最中にも自身のアーティファクトである力の王笏を呼び出した。
「広漠の無、大いなる霊それは壱。電子の霊よ、水面を漂え。我こそは電子の王」
 鬼神の頭部に足を着くと同時に、千雨の体はくてりと刹那の腕の中で力を失った。
 ムドが力ずくで制御を奪った鬼神を、さらに機械制御の面からも制御を奪うのだ。
 だがその間、千雨は限りなく無防備な状態になってしまう。
 そこで次々にアーニャやネカネ、明日菜達もムドを連れて鬼神の肩や鎧の上などに飛び移った。
 その上からロボ田中を遠距離攻撃で狙い打つ。
「神鳴流奥義」
「斬鉄せーん」
 刹那と月詠が放った跳ぶ斬撃が、ロボ田中を纏めて両断していく。
 アーニャやネカネ、亜子も魔法の射手で弾幕を張り続ける。
「制圧完了、もう大丈夫だ。ムド、起きても良いぞ」
 乗っ取りの可能性は考慮されていなかったのか。
 数分も立たないうちに千雨が意識を体に戻して、そう叫んだ。
 電脳世界に篭らなくても、操縦可能なようにプログラムを弄ったらしい。
 鬼神がオートでロボ田中に無差別砲撃を放つ中で、ムドもその意識を覚醒させる。
 あぐらをかいて座り続けていた状態から立ち上がり、空を見上げた。
 鬼神の肩や頭、鎧の上にいる従者達を見上げての事ではない。
「兄さん……」
 見上げたのは本当に遥か頭上、真上であった。
 そろそろ赤焼けていた空の名残も消え、夕闇に覆われそうな空を必死に世界樹が照らし出している。
 そんな中ではっきりと見えていたわけではないが、ムドにはネギの接近が感じられたのだ。
 双子ならではのシンパシーだろうか。
 その視線に気付いたフェイトもまた空を見上げ、栞達も空を見上げた。
「いた。杖に乗ってこちらへ、急下降」
 感知能力の高い環もまた、ムドにやや遅れてはいたがネギの接近を察知した。
 ロボ田中の掃討を手伝っていた裕奈やまき絵達三−Aの面々や、麻帆良学生達も気付き始める。
 武道会の時とは異なり、黒のローブを着たネギが空から降りてくるのを。
 そのネギが、ムド達の頭上数メートルの地点で杖を止め、その上に立った。
「ネギ坊主」
「ネギ君」
「ねえ、ネギ君。私仮契約カード失くしちゃったみたいで……あれ、怒ってる?」
 古や木乃香、少し能天気なまき絵の声にさえネギは反応を見せなかった。
 ただただ一心にムドだけを瞳に、打ち倒すべき敵だけを見据えていた。
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